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トラネコボンボン レッツゴー高知 

まるで洗い立てのような、雲ひとつない、青空。

「正しい夏」というのは、きっとこんな日のことだなぁと感じながら、nounours books編集部一行は、高知へと向かいました。

旅の目的は、トラネコボンボンこと、中西なちおさんを訪ねること。

なちおさんと言えば、絵本作家であり、また「旅するレストラン」と称して、各地で料理を提供する「トラネコボンボン」の主宰でも。なちおさんの描く絵をもとに、布やアップリケ等のものづくりをCHECK&STRIPEとコラボする「トラネコ手芸店」でもおなじみです。

なちおさんと過ごした「正しい夏休み」の時間を、元気にお届けしたいと思います。

 

DAY 2 牧野植物園へ

トラネコボンボンこと、中西なちおさんを訪ねた高知の夏休み。

日曜市(*DAY1ご覧ください)で盛り上がった翌日もまた、抜けるような青空の下、nounours books編集部は念願の「高知県立牧野植物園」へと向かいました。

牧野植物園は、高知県出身で「日本の植物分類学の父」と言われた植物学者・牧野富太郎博士の業績をたたえて、昭和33年、高知市の五台山に開園しました。園内には、博士ゆかりの植物や高知県特有の草花などが3,000種類以上も!

案内人はもちろん、高知出身のなちおさん。「牧野植物園そのものが好きなので、普段もなんとなく晴れた日とか、気が向いた時にのんびりと訪れます」とのこと。

子どもの頃からよく知るこの植物園で、なちおさんならではの自然との触れ合い方や過ごし方、またご自身の植物へのまなざしについても、たくさん教えていただきました。

 

 

 

「なちおさんがいちばん好きな場所はどこですか?」

早速尋ねてみると、「正門前から本館入り口までの遊歩道です。素晴らしい、のひと言です」という回答。

その場所は、高知に自生する植物を集めた「土佐の植物生態園」のエリア。高知の植生を「山地」「低山」「暖温帯」「海岸」の4つのゾーンに分けて再現しているのだそうです。

「あまりにも自然に高知の植生を再現しているので、花が咲いていない時期は、本館迄の山道っぽい遊歩道だと見過ごされるかもしれないのですが、ゆっくりと植物観察をしたい場所の一つです」(なちおさん)

 

 

 

たしかに、猛暑だったこの日も、ひんやりとするような滝や木陰が再現されている場所でした。写真下のお花は、タキユリ。

「自然界の植物は、土の状態や隣り合う植物が影響し合い、個体が増えすぎたり、大きくなりすぎた個体に負けて消えていったり、根を張って移動していったり。(人間の目には)ゆっくりの様に見えても、目まぐるしく変化していきます。それがこの場所はいつ訪れても植物同士の調和が保たれていて、みんながそれぞれ、生き生きと育っています。それは知識と技術、日々の手入れの上に存在しているのだと思います」(なちおさん)

 

 

 

 

 

空が高い! 

それもそのはず、植物園があるこの五台山は、標高146m。植物園の建設計画が持ち上がったその昔、牧野博士の「植物園をつくるなら、五台山がいい」というひと言で、この場所に決まったのだとか(写真は、北園内)。しばし、牧野博士の視点に思いを馳せて、高知の市街地を眺めてみました。

「子どもの頃、春の遠足は決まって南園の草地で、みんなが思い思いの場所に敷物を広げてお弁当を食べました。今ではたくさんの植物があって、見どころ満載の南園ですが、昔はなだらかな草地の斜面に小さめの蓮池があるだけの、開けた場所でした。あの時の、何にもない草地の風景を思いだすと、胸が広々とするような気持ちになります」(なちおさん)

 

 

 

 

「あ、あそこにフウラン(風蘭)が咲いてます」と、なちおさん。フウランとは、土壌に根をおろさずに、樹上や岩の割れ目などに着生するランの一種。

聞くと、なちおさんのお父様がランの蒐集(しゅうしゅう)家だった影響で、「山でランを見たり、名前を調べたりするのも楽しみの一つでした。今でも山に入ると、ランがどこかに生えていないか探してしまいます」とのこと。

「ジョージア(旧グルジア)に行ったときもランを探して山歩きをしました。初夏のコーカサス地方には原種のランが咲き誇っていて、私ははしゃいでいたのですが、同行者には“あまり可愛い花ではないですね”と不思議がられて(笑)」

 

話はさらに続きます。

「ランはなぜか、魅力のある植物なのですよね。とくに日本のランの花は、よく言えば楚々としていますが、大抵は地味です。父のようにランは蒐集家が多いのですが、私はそれを“ランの繁殖計画ではないか”と睨んでいます。人を利用して育て、増やして貰い、遠くの国へ運んでもらっているのではないでしょうか。だから私も子どもの頃にランに何か、悪い魔法でもかけられたのかもしれません。今でも好きなのです」

なちおさんの「ラン論」面白い!(笑)。牧野博士が聞いたら、きっと大喜びでなちおさんとお話なさったことでしょう。

 

 

愛らしい様子の花は、「ヒオウギ」

 

 

写真下は、本館と展示館をつなぐ回廊に植えられた「バイカオウレン」。牧野博士がとくに愛した植物で、葉っぱの形は牧野植物園のロゴマークにもなっています。

さて、動物が好きで、植物も好きななちおさん。「それはどうしてですか?」と尋ねてみました。

「営林局に勤めていた父の趣味は、山に関することでした。山歩きや盆栽やランの蒐集、山登りもよく連れて行ってもらい、植物図鑑で名前を覚えたものを発見すると、褒められました。それが楽しくて植物好きになりました。

盆栽の手入れもさせてもらいました。父は松や楓、日本ランなどを育てていましたが、私は苔と雑草盆栽。雑草盆栽も野原や山で見た風景を見立てる遊びで、随分とおじいさんみたいな子ども時代でしたね(笑)」

「植物は学問でもあり、冒険でもあり、私にとっては尽きない憧れそのもの」というなちおさん。どこか、牧野博士にもつながっているようななちおさんのルーツに、少し触れられたような気持ちになりました。

 

 

写真は、「牧野富太郎記念館 本館」。三重県にある「海の博物館」などを手掛けた内藤廣(ないとうひろし)氏による建築美も楽しむことができます。

 

 

 

 

本館には、牧野博士の蔵書など、約60,000点を収蔵する牧野文庫(研究調査のみ利用可)をガラス越しに見学することも。

 

 

 

 

 

つい最近も、植物園の展示館シアター(国内の植物園初の高精細4Kシアター!)で、牧野博士が描く植物の細密画を鑑賞したばかり、というなちおさん。

「牧野博士は絵の技術も素晴らしく、植物の細密画は機械のように正確で、しかも美しい。日本筆の絵も素晴らしいですが、石版画の細密には驚愕します。博士の遺した植物図は見飽きることがありません。植物図を見るだけで、博士の植物に対する深い愛情が伝わってきます」(なちおさん)

 

 

 

 

本館にある「ボタニカルショップ nonoca(野の花)」では、牧野博士の植物図をあしらったグッズも購入可能。写真上から、ポストカード(各1枚 110円/税込)植物研究雑誌を模した一筆箋(418円/税込)*オンラインでも購入可能

 

 

 

牧野博士ゆかりの植物をテーマにした、オリジナルブレンドティーも各種購入できます。写真は、釜炒り茶、ドクダミ、スエコザサ、ペパーミントがブレンドされた「Sueko-zasa/スエコザサ」(324円/税込)。

 

 

牧野博士が仙台で発見した笹に、妻の壽衛(すえ)夫人の名を冠し、「スエコザサ」と名づけたことは有名なお話です。

「誰も知らない植物をもしも山でみつけたらと、想像するだけで心が躍ります。図鑑でしか見たことのなかった植物を、初めて見るだけでも嬉しいのです。牧野博士は名前もなかった植物1500種類以上を命名しています」(なちおさん)

 

 

南園では、稀少な「青い蜂(ナミルリモンハナバチ)」を発見! なちおさんも編集部一行も、「見つける喜び」を感じたひととき。しばらくの間、観察を楽しみました。

 

 

 

 

なちおさんいわく、牧野植物園は「いつ訪れても、新しい発見がある場所」だそう。ご近所圏内に、まるで秘密基地のような、こんな素敵な場所があるなんて。「高知の人はいいなぁ」とまたしても羨ましい気持ちが半分、そして「また来なくちゃ」という嬉しさも半分。いろいろな余韻を残して、わたしたちは植物園をあとにしました。



中西なちお

絵本作家・料理人
2007年より、「旅するレストラン」と称して店舗を持たず、季節や場所、テーマに合わせ様々な国の料理を提案する、トラネコボンボンを主宰。

2011年3.11震災後 避難先の友人に、何か送ろうかとたずねたところ「毎日動物の絵を一枚送って」といわれてからホームページのblog「記憶のモンプチ」で毎日一枚動物の絵を更新中。
近著に「猫と世界どうぶつ記」誠文堂新光社「トラネコボンボンのお料理絵本」MOE BOOKS「のうじょうにすむねこ」小学館など。



高知県立牧野植物園公式ホームページ

https://www.makino.or.jp

写真 大段まちこ 取材・文 井尾淳子

 

 

 

トラネコボンボン レッツゴー高知

 

 

 

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