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ROOM STORY


nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

01-side A

帰りたくなる“巣”のような家

 

静岡の人気雑貨店「s a h a n j i +(サハンジプラス)」店主・河村奈穂さんの新居を訪ねました。

河村さんのご自宅があるのは、JR静岡駅から在来線でほど近い、用宗(もちむね)駅。

 

 

夏は海水浴場にもなる海が近いせいか、

空の青さと光の眩しさに、こころもからだもじんわりとほどけていくよう。

そんな優しく穏やかな街の中に、河村さんの新居はありました。

 

小2の息子と夫との3人暮らし。

「子どもが生まれた時から、自分たちの家を建てることは考えていました」という河村さんは、やがて建築家の堀部安嗣さんと、運命の出会いを果たすことになります。

「素敵だな」と思う家はいつも、堀部さんの建築によるもの。

著作が出る度にトークショーへ足を運ぶほど、堀部さんへの関心が深かったのだそうです。

 

 

 

「住まいは食や衣と同じく、人の心身に大きく作用するとても重要なものです。

また風土や環境や地域の文化と密接につながっていなければならないものだと思います」

 

これは、堀部さんが自著『住まいの基本を考える』(新潮社)で伝えていること。

河村さんは、そんな堀部さん建築の、どんなところに惹かれたのでしょう?

 

「家のプロポーションの美しさもさることながら、

著作にお書きになられている文章が、

自分が日頃感じていたこととリンクして、とても腑に落ちたんです。

家を建てるって、人生を託すくらいの一大事。

なので、“こういう考えをもってる方にお願いしたい”と思いました」(河村さん)

 

 

「なかでも強く惹かれたのは、

“利己的ではなく、利他的な家”という、堀部さんの考えです」(河村さん)

 

たとえどんな小さな家でも、大切な日本の風景であり、文化の一部。

だから家は、個人の趣味嗜好だけを考える利己的なものではなくて、

近隣の人、街ゆく人にとっても美しい、利他的なものであってほしい。

「家は、施主や建築家のエゴで作る作品とは違う」というの堀部さんの哲学に、

たくさんの気づきと学びがあったといいます。

 

たしかに河村さんの家は新築の家ではあるけれど、まるで昔からそこにあったかのように、

まわりの街並みの中に、自然に溶け込んでいました。

 

 

 

ここ用宗は、河村さん自身が生まれ育った地元でもあります。

「“記憶の継承”というのも、堀部さんの建築のキーワード。

私がこの街で過ごした記憶をそのまま、息子も家を通して追体験する。

そこがいいなぁと思いました」(河村さん)

 

 

 

堀部さんの家の特徴は、

意匠の美しさと、性能が融合していること。

 

たとえば、光と影の陰影が美しい、漆喰の白壁。

「漆喰の壁は左官仕事なんです。でも、そういう職人さんがどんどんいなくなってきている。

湿気を吸うという機能面と、職人の技術を絶やさず残していこうという思い。

その両方の要素があります」

 

そして外壁に使われている杉板も、海が近いという場所柄、

「替えがきく・入手が容易・補修もしやすい・

コストパフォーマンスが高い」という、

サスティナブルな理由から採用されているのだとか。

 

「意匠と性能を併せ持つ家を作っていただきました。

実際に暮らしてみて、どちらにも偏らず、またどちらも優れていることを体感しています」

 

 

 

天井は少し低めで、窓も小さめ。

河村さんの家はあえて、「巣に籠もるようなデザイン」になっているのですが、

それにも納得!の理由がありました。

 

「たとえばこの土地の場合、一歩外に出ると、パーッと明るい空と海があります。

そういう明るさは一歩外に出ればすぐに得られるから、

家は内省的な環境である方がいい。

そういうことも、堀部さんに教えていただきました」(河村さん)

 

外の環境に引っ張られるのではなく、

パーソナルなものに向き合った方が、おのずと外へと心が開かれてゆく。

それが堀部さんがかたちにしたかった、河村家のありようだったそうです。

 

 

 

家とは本来、住まう人が帰る、巣のような場所。

外にいる時は、早く家に帰りたくなる。

家で過ごした後は、元気に外に出かけたくなる。

ピカピカに明るいショールームのような家だけが、居心地のいい家とは限らない。

河村さんの家は、そんな大切なことを肌で教えてくれているかのようでした。

 

★次回sideBでは、河村さんのお気に入りの場所の写真を中心に、

家が出来上がるまでのroom storyをお届けします。お楽しみに!

 

Column 暮らしの中の布使い

 

 

根菜などの野菜は、冷蔵庫ではなく、ベジタブル袋に入れて保存しているという河村さん。

刺繍が可愛いベジタブル袋は、河村さんが交流のある、安曇野の作家「nagibotan(ナギボタン)」のもの。

 

 

訪ねた方

河村奈穂

静岡県清水にある「サハンジプラス」店主。

幼稚園教諭を経て、2006年に祖母の家を改装、雑貨、服、手作りのものを扱う店としてスタート。現在は企画展期間のみオープン。

 

℡ 054-353-1155

静岡市清水区堂林2-9-5

https://www.instagram.com/sahanjiplus

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

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