nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。
家のこと。部屋のこと。
ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。
「room story」side A、side Bとしてお届けします。
15-side B
暮らしに息づく、テキスタイル
イラストレーター・福田利之さんの徳島のご自宅を訪ねて、Side Aではそのアトリエ、また家族との穏やかな時間について、お話を伺いました。
「じつは、自称・テキスタイルにすごく興味を持っているイラストレーター、です」と、福田さん。
以前は、「十布」(TENP)というブランドで、福田さんのイラスト、グラフィックデザインから生まれるテキスタイル、布プロダクトを発信する活動も行っていたといいます。
「その十布は2023年3月に運営を終了して、現在は“POSIPOSY(プスプス)”というブランドで、ハンカチや靴下などを中心に、身の回りの布プロダクトを制作しています」(福田さん)
そう聞くと、たしかにご自宅のあちらこちらに、福田さんのイラストをモチーフとした布小物があることに気づきました。
写真上は、福島で刺子織の布をつくっている作家さんとのコラボレーションから生まれたクッション。「十布」で制作販売を行っていたそう。写真下は、ディズニーとのコラボレーションで制作した手ぬぐい。*ともに、現在は販売を終了しています。
「あまり自分の作品を置きすぎるのもどうかな、ともちょっと思うのですが……。どうしても、そうなってしまいますね(笑)」と謙遜される福田さんですが、nounours books編集部としては、どれも気になる作品ばかり。福田さんがテキスタイルに興味を持ったきっかけとは、どんなことだったのでしょうか。
「イラストレーションの仕事は、依頼をされて描く、というのが前提なんです。それもあって、自発的に何かを作る活動もしてみたい、と以前から思っていました。20年ぐらい前になるのですが、自分のデザインで作った生地をいろんな作家さんにお渡しして、商品を作ってもらうという試みをある企画展でやってみたんです。その時に、イラストが服になったり、ポーチになったりするのが面白くて。紙媒体では終わらずに、それが新しい作品、テキスタイルになっていく過程にわくわくしました」(福田さん)
その経験から、「いつか自分のブランドをもってみたい」という思いも芽生えてきたのだそう。
ご自宅のアトリエで、お話は続きます、
イラストを描く時。そして、テキスタイルのグラフィックデザインを考える時。その時々で、福田さんのクリエイティブのスイッチはどのように切り替わるのですか?
「うーん、どうでしょう。イラストレーションは、クライアントさんが希望する枠組みが、ある程度あります。こんなイメージでお願いしたい、など。一方のテキスタイルの場合も、布の中である程度の図案のリピートがあるなど、やっぱり制約があります。でも僕は、その制約が苦にならないというか、むしろ、ちょっと幅が狭まる方が面白がれるタイプなんです。なのでイラストレーションという仕事も、テキスタイルというアートワークも、自分はあまりその差を意識することなくやっているように思います」(福田さん)
なるほど。「テキスタイルは、形が変わっていく可能性がとにかく面白い」とのこと。
Side Aでもお伝えしましたが、この度、福田さんとCHECK&STRIPEとのコラボレーションによる、布の販売が決定しました。
「これまで、布を作り、そこからプロダクトを作るという活動は行っていました。けれど今回のように、反物で手芸をされる方にむけての販売は、すごくひさしぶりの試み。とても楽しみです」と、福田さん。10月18日(日)〜11月6日(月)正午までONLINE SHOP「福田布店予約販売(福田利之さんが描く布の世界)」でご注文をお受けしています。ぜひご覧ください。
「子ども時代、他の子と比べて絵がうまかったとか、特別に好きだった、という記憶はないんです」(福田さん)
「ただ、父親がカメラマンだったこともあって、もともと商業美術への興味はありました。大学ではグラフィックデザイン学科を専攻していたので、その時点で、イラストを描く仕事をやりたいなとも思っていました。いわゆるファインアートではない、お題をもらって描くことが、意外と自分に合ってるし向いているな、と」
じつは以前、関わった書籍の装丁で、福田さんにお世話になった経緯がありました。たしかに「本に合うイメージで」というお題はあったものの、福田さんの仕上がりを拝見した時、そのお題を超えた世界が広がっているのを見て、思わず「わぁ~」と声が漏れたほどです。
「そう言っていただいて光栄です。“イラストレーションは、依頼あっての仕事”とはいえ、やはりお題を超えるものを生み出したい、という意識はつねに働きますね。何か自分なりの、自分らしいプラスアルファといいますか……。学生向けの講義でも、よくそういうお話することが多いのですが、そうしないと、仕事って先に進んでいかないものだよ、と」
「…かといって、自分を出しすぎて、やりすぎるのもよくないですけども」と、丁寧に、さらに言葉を選ぶ福田さん。でも、そのさじ加減のありようこそが、プロフェッショナルという世界。クライアントも、そしてものを買うお客さんも、だから心を動かされるのに違いない、と深く納得したお話でした。
リビングに飾られた真鍮のモビールは「ほぼ日」とのコラボレーションで、福田さんの企画したデザインだそう。「アースボールという商品の企画でつくりました」(福田さん)*現在は販売を終了しています。
そして福田さんは、「暮らしの中で使われるもの」という点に、テキスタイルの魅力や奥深さを感じる、といいます。
「美術館に絵が飾られている空間も素敵ですが、僕自身はどちらかというと、普通の家にふきんがかかっていたり、気に入った服を日常的に、くたくたになるまで着込んだり、それが自分の絵の布だったりすることに、どこかじんわりとした喜びを感じます。使っていただく日常時間の中に……おおげさな言い方をすれば、日常の中に美術館があるような。自分の作品が、そんなシーンの一助になれたら、とても幸せですね」
書籍など装画の仕事でも、「書店に自分の絵が並んでいたりすると、その場所がギャラリーになったようで、うれしくなるんです」といいます。
日常の暮らしの中に、そっと息づくテキスタイルがある、ということ。それはとても豊かで、じつはぜいたくで、素敵なこと。
作り手の思いが込もった布やプロダクトは、時に、暮らしのお守りになっているようにも感じられました。
Column 暮らしの中の布使い
リビングのテーブルにかかっている大判の布(写真上)は、北欧のメーカーと福田さんがコラボしたもの。下の写真はスウェーデンのハンドプリントメーカー「Frösö Handtryck」(フローソ ハンドトリック)https://frosohandtryck.se/en/のテキスタイルで、現在もヨーロッパを中心に販売中です。
訪ねた方
福田利之
大阪芸術大学グラフィックデザイン科卒業後、株式会社SPOONにて佐藤邦雄に師事。独立後、エディトリアル、装画、広告、CDジャケット、絵本、雑貨制作の他、テキスタイルブランド「POSIPOSY(プスプス)」を手がける。現在、徳島と東京の2拠点にアトリエを構える。
https://to-fukuda.com/illustrations
撮影/大段まちこ 構成・文/井尾淳子