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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

13-side B

「きれいなお菓子」が生まれる場所

 

「歳を重ねて、まったく知らない街で暮らすことになるとは、思ってもみませんでした」とは、お菓子のアトリエ「Le petit bleu」を主宰する「みきこ先生」こと、森川みきこさん。

side Aでは、住み慣れた京都から芦屋へ、部屋数も多く広かった一戸建てから、「身の丈のサイズに合った」マンションへの、お引越しストーリーをご紹介しました。

そしていまは、初めて暮らす街ながら、「海も山も近くて、愛犬の散歩コースにも事欠かなくて、美味しいお店もたくさん!」という、芦屋暮らしを存分に愉しんでいるのだそう。

 

 

 

ラクに、身軽に、ムダなく動けるようになったおうち。以前抱えていたストレスはすっかり解決したけれど、みきこ先生にはもうひとつ、心機一転したい場所がありました。それは、お菓子を作ったり、教室を開いたり、通販の作業をするための、仕事用の「アトリエ」。

「もともとは大阪の肥後橋というところに、16年間借りているアトリエがありました。引っ越す前は京都から大阪まで、1時間半かけて“通勤”していたんです。でもその移動は、芦屋に引っ越しても、感覚的にあまりラクにはならなくて…。コロナ禍もあり、また昨年はめずらしく体調を崩していたこともあって、お菓子のお教室はしばらくお休みしていたんです」(みきこ先生)

 

 

 

 

このroom storyにご登場いただく方々には特徴があって、それはみなさん、絶妙なタイミングで「直感」や「ひらめき」が降りてくるところ(笑)。

もちろんみきこ先生も、そのご多分に漏れずで、ある朝起きた瞬間に、

「そうだ。アトリエは、苦楽園(西宮市)に引っ越したらどう?」と、なぜか突然思いついたのだそう。

「すぐにネットで調べたら、アトリエにぴったりの、理想的な物件が見つかったんです。不動産さんにすぐ電話をしたところ、“今日、内見しますか”と聞かれたので、行きます!と即答しました」(みきこ先生)

 

 

写真が、昨年秋に借り始めたという、現在のアトリエ(教室も再開されています)。以前のアトリエよりも、「2倍ほど広い」とのこと!

みきこ先生から明るく語られる、「住まいは小さく、仕事場は大きく」というこの楽しいストーリー展開に、すっかり惹き込まれてしまった編集部でした。

 

 

 

「お菓子づくりの営業許可が下りる場所というのは、少し改装が必要なので、探すのが案外、難しいんです」(みきこ先生)

でも、ひらめきとともに見つけた物件は、「きれい」だけれども「必要な改装はOK!」という好条件で、自宅からも15分という近さ。

「3ヶ月くらい空いているとのことだったので、今日即決しなくてもいいだろう、週末にまた夫と見に来よう、と、いったん持ち帰ることにしました」

ところが、ところが…再訪の前日に、不動産屋さんから思わぬ電話が。

なんと、みきこ先生が内見した翌日に、べつの人が見に来て、その場で決めてしまった…と言うではありませんか!

 

 

 

「ショックでしたよ~。“あんなに理想的な物件、もう出てこないわ~!”と、ものすごく落ち込みました。…でも、30分くらいとことん落ち込んだら、またふと、わたしの中のもうひとりのわたしが、急に目覚めたんです(笑)。…でも、可能性はゼロじゃないよね? 2番手でもいいから、やっぱり申し込んでおいたら?って」(みきこ先生)

「森川さん、前向きですねぇ」と評した不動産屋さんから、またまた驚きの連絡があったのは、2番手の申し込みから数日後のこと。

「もう一軒、空きが出ることになった、というんです! それで、大家さんいわく、どちらかを最初に選べるのは1番手の人で、2番手の人は残ったほうになる、と。それで、もう一人の方はべつの部屋を選んで、わたしが最初から希望していたこの場所が、結局残ったんですよ~」

 

 

 

 

 

ご自宅でのランチに続き、このアトリエでは、おやつのケーキをご用意してくださったみきこ先生。

ハラハラドキドキのお話を熱く語っていただきつつも、手元はごらんの通り。

きれいなケーキが着々と出来あがっていくさまは、さすがです。

 

 

 

 

みきこ先生のroom storyから学んだ大切なことは、次のふたつ。

①直感やひらめきには、抗わないこと(すぐ行動)。

②そして、それは簡単にはあきらめないこと。

それはまさに、みきこ先生のお仕事 storyにも通じていて、「結婚後、専業主婦をしていた自分が、まさかこんなに長い間、お菓子づくりを教えたり、作り続けることになるとは、思ってもみませんでした」といいます。

 

 

 

専業主婦時代、本格フランス菓子のパティシエとして知られる津田陽子さんのお菓子教室に通い始めたことがきっかけとなり、基礎を学び、その後は講師としても師事、修行を積むこととなったみきこ先生。

「(津田先生のもとを)退職した後も、やっぱり自分はお菓子をつくりたいな、と思いました。そこでまたひらめいたのは、月に1日だけレンタルスペースを借りて、そこでお菓子の教室を開くこと。でも当時は今のようなSNSもないから告知も難しくて。前職の後輩が友達を誘ってくれたことで、生徒3人からスタートしました。それが、20年前くらいことです」

やがて、月に1日・生徒3人の教室は、月に3日・生徒5人、月に5日・生徒10人と、どんどん規模が広がって、いまでは、60人ほどの生徒さんが通う人気教室に。最近は、教室の主宰以外に、クッキーなどのお菓子の通販もスタートしました。

 

 

 

このアトリエで、ひとりクッキーを焼く時、みきこ先生の頭の中で、ずっと鳴り響いている言葉があるといいます。

「それは、“さっきよりも、きれいに。さっきよりも、きれいに”。

そのことばかり思い続けながら、オーブンに天板を入れる作業を繰り返しています。なぜかというと、つねに、毎回、“全然、上手にならへんなぁ”と思っているので…。わたしが作って、わたしが並べて、同じオーブンで焼いているのに、1回1回、焼き上がりはちょっとずつ違うんですよ」

そんなていねいな想いこそが、ずっとみきこ先生を突き動かしているのかもしれません。

 

 

 

なめらかなクリームの表面と、美しい切り口からは、みきこ先生のお菓子に対する愛情がじんわりと伝わってくるかのよう。

暮らす街も、家も、興味関心ごとも。ときに思い切って、想定外のコースを選んでみると…。すると人生はもっと面白く、もっと真剣になれるのかもしれないなぁ…。

そんなことを思いつつ、美味しいケーキをペロリと平らげてしまった午後でした。

 

Column 暮らしの中の布使い

 

 

お菓子教室の時など、side Aで紹介したリバティプリントのエプロンの腰ひもに、いつもつけているというクロスは、布作家・石川ゆみさんの作品。

「以前、個展に伺った際に購入した、お気に入りです。ちょっと手を拭いたりする時に便利なので、“ハレの日用の手拭き”として、

愛用しています」(みきこ先生)

 

訪ねた方

森川みきこ

お菓子のアトリエ「Le petit bleu」主宰。

焼き菓子の受注販売、ノベルティの制作、イベントの出店など、お菓子にまつわる事を色々と活動中。

 

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

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