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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

 

10-side A

“ワクワク“”の発信基地から

 

高知県の市街地からほど近いその場所に、トラネコボンボンこと、中西なちおさんの住まいはありました。

白いペンキに塗られた2階建ての家は、一般的な住居とはちょっと趣が違っていて、「なにかの面白そうなお店かな?」と、思わず立ち止まりたくなる佇まいです。

「ここはもともと、店舗つきの住宅だったんです。私は日本の一般的な住宅よりも、そっけなくてただ広いような、ちょっと個性的な物件が好きで」と、なちおさん。

中は、一体どんなおうちなんだろう~と、ワクワク。入り口から続く細い階段を上がって、まずは2階にあるお部屋から案内していただきました。

 

 

 

「あっ、こんなところに!」と、猫の絵やモチーフを発見。

 

「わーっ、かわいい!」思わず声を上げる編集部一同。

たしかにそこは「どーんと広いダイニングスペース」があって、奥はメインのキッチン、客間へと続く個性的な間取りになっていました。

なちおさんといえば、絵本作家であり、また「旅するレストラン」と称して、各地で料理を提供する「トラネコボンボン」主宰としてもファンがたくさん。さすが、どこを切り取っても、部屋のあちこちに“トラネコボンボンワールド”の仕掛けが散りばめられていて、ずっと眺めていたいほど楽しい空間です。

 

 

大人数のケータリングをこなすなちおさん。

キッチンには、鍋などの調理道具が使いやすいよう配置。さすがです。

 

 

洗面台には、ワイヤーをつかった収納で、めがねと歯ブラシも可愛く。

真似したい工夫です。

 

「最初はこの2階部分だけを借りて住んでいました」と、なちおさんが言うと、「2006年からですね。下の階は、洋品店を営む高齢の女性が住んでいたんです。この2階は、以前はフリーペーパーの編集室だったみたいです」と、夫の“ヨッシーさん”こと、義明さんがさらに詳細に説明してくれるのでした。

「記憶力のいい夫が、私の代わりに説明してくれることがよくあるんです。最近は私がトラネコボンボンの“トラネコ”で夫が“ボンボン”だと言っています。私は動物みたいな人だし、夫は育ちの良いボンボンなので(笑)」(なちおさん)

 

 

テーブルの土台として、また作業台の下には、「米軍払い下げのコンテナを白く塗ったもの」が上手に活用されていました。

 

 

 

コンテナの引き出しの中に収納されているのは、食器やカトラリーなど。来客時にもサッと出せる使いやすさです。

 

 

 

高知生まれのなちおさん。高校を卒業してからずっと、タイ、東京、沖縄など、「高知と、どこか」という二拠点生活暮らしを続けていました。

(ヨッシーさんによると)2021年までは、活動のベースは完全に東京。高知の家は、「関西以西の仕事があるので、“春夏秋冬のシーズンごとに1~2週間くらい帰ってくる程度”だった」そう。東京の家では営業許可証も取得し、お菓子づくりの場所もあり、絵を描く場所もあったのだとか。なのに、「拠点はもう高知だけに」と決めたのはどうしてですか?

「去年のコロナ禍の時期、仕事のために高知に来ていたんです。でもその後もなかなか収まらない状況が続き、1年近くずっと東京に帰りませんでした。それでも問題なく、自分の活動も仕事もできることがわかって、自然な流れで、高知へ移住しようとなったんです」(なちおさん)

 

 

 

 

 

そしてタイミングよく、1階部分も空き家に。高知をベースにするならば、と、1階になちおさんのアトリエや寝室をつくることになりました。なちおさん&ヨッシーさんの二人でペンキを塗って、古い畳やタイルを剥がして廃棄して、新たに床材を入れて………。

(東京から引っ越す時には、長い二拠点生活で増えた暮らしの道具を、「1トン以上は処分しました」と、なちおさん)

かくして、まるで楽しい発信基地のような、白いこの家が完成したのでした。

 

 

 

1階のアトリエで絵を描くなちおさん。「ここで絵を描いている時間がいちばん好きです」とのこと。

 

 

 

「二拠点生活が一拠点生活になって、暮らしはどう変わりましたか?」と尋ねてみました。

「じつは、思った以上に暮らしぶり(仕事量や、仕事に対する気持ち)が変わらなくて、自分でも意外です。旅が好きだし、常に違うことをやり続けてきたので、一箇所だけで暮らすのは息が詰まることもあるんじゃないか……と思っていたんですけども。毎日ご飯作って作業して夫と話しているだけなんですけど2年経った今も、まったく飽きないです」(なちおさん)

県外の友達もよく遊びに来るし、日曜市もあるし(小規模ながら火曜・木曜・金曜市も立つのだとか!)、露天市に並ぶ野菜や果物も、作って売る人も、個性があって面白い。

「野菜や果物の旬って意外と短くて、すももがいっぱい並んでいるから来週すもも酒を漬け込もうと思っていたら、もう時期が終わってしまっていてがっかりしていたら今度は違う種類のすももがいっぱい並び始めて、すももの種類にも季節があるんだな!と思ったり、ただ季節を追って出てくる野菜や果物を見たり買ったり食べて暮らすだけで、今は本当に楽しいんです」(なちおさん) 

 

 

 

大切な仲間、友人が訪ねてくると開催されるのが、大好評の「居酒屋なっちゃん」。写真(上)はこの日のメニュー。「食べたいものを選んでください」と笑顔のなちおさんと、「全部食べたい! 選べません~!」と迷う幸せな編集部。

 

 

「野菜って、採ってすぐのものほど美味しいですよね。ちょっと曲がった野菜は安いし、ピーマンなんて生産者さんから買うと、山盛り入っても30円とかで、私が子どもの頃より安い! それらを料理しないと新しいものも買えないので、じつは外食に行くヒマもないほど忙しいです。果物をいただいたら、シロップ漬けにしなきゃ、じゃあかき氷もしようか…とか。洗ったり下拵えするだけで深夜!なんていうのはしょっちゅうで」

笑顔でそう話すなちおさんは、心の底から楽しそう。

「最近もご両親の介護をしている友人のために、すぐに食べられるよう、野菜をたくさん入れた惣菜セットを作って差し入れしました。なすの焼きびたしは好評でしたがカレーは辛すぎたらしいです、差し入れ食はまだまだ研究中」(なちおさん)

聞いているだけで美味しそう。「たしかに年齢を重ねるほど、人の手の入った美味しい料理をいただきたいですよね……。この家の隣に、“トラネコ養老院”を作りましょうか?」という、CHECK&STRIPE代表・おなじみlabmiさんの真剣な提案に、一同大賛成!&大笑い。

 

 

 

お話を伺っていると、「楽しんでもらえているかな」「喜んでもらえているかな」という言葉が、なちおさんからよく出ることに気づきます。

「何でも、面白いほうがいいじゃないですか。くすくすって笑える、ちょっとおかしいほうがね」というひと言が印象に残りました。

ごはんも、絵も、日々の暮らしも。「どうすれば楽しくなるかな?」という想いがいっぱいつまったこの家で、美味しいごはんとともに、ワクワクの空気をいっぱい吸い込んだわたしたち。ただただ、「幸せだなぁ」と感じるひとときが流れていくのを感じながら、夏の夜は更けていきました。

 

 

Column 暮らしの中の布使い

「洋服は、自分でデザインをしたチュニックワンピースをいつも着ています」というなちおさん。フランスの古いチャーチスモックから型を起こしたデザインで、知人に縫製をお願いしているとのこと。フランスでは日常着として、野良着から寝衣までよく見られる型だそう。「背が高い人も小柄な人も合わせやすい型です」(なちおさん)

 

 

 

 

写真は、青い鳥の絵を綴った絵本「BIRD」に合わせて制作した布で作ったワンピース。

 

訪ねた方

中西なちお

絵本作家・料理人。2007年より、「旅するレストラン」と称して店舗を持たず、季節や場所、テーマに合わせ様々な国の料理を提案する、トラネコボンボンを主宰。

2011年3.11震災後 避難先の友人に、何か送ろうかとたずねたところ「毎日動物の絵を一枚送って」といわれてからホームページのblog「記憶のモンプチ」で毎日一枚動物の絵を更新中。
近著に「猫と世界どうぶつ記」誠文堂新光社「トラネコボンボンのお料理絵本」MOE BOOKS「のうじょうにすむねこ」小学館など。

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

 

 

 

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