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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

 

08-side B

「風化」を愉しむ家

 

軽井沢の森の中、ヴィンテージの北欧家具や道具とともに暮らすのは、

須長檀(すなが・だん)さん、理世(みちよ)さんご夫妻。

side Aでは、家具デザイナーとして、また北欧家具の店主として独立するまで、

スウェーデンで過ごした二人の暮らしや軽井沢への移住についてご紹介しました。続く今回は、

まだ森のままだった土地と出会い、家を建てることになった物語の続きから、お届けしたいと思います。

 

 

 

 

家族の住まいを森の中に決めた理由について、

「自然の中で子どもを育てたいと思ったこと。それが大きかったですね」と、夫の檀さん。

 

川や湖で魚釣りをしたり、森を散歩したり。

スウェーデンの人たちは、自然の中で余暇を過ごすことが多いといいます。

「そんなライフスタイルを、子どもたちにも味わってもらいたかった」そうで、家の外も何やら製作中の様子。

「今、庭に小屋を作っているところで、土台まで完成しました。

古い木枠を集めているのですが、そこにガラスの扉をつけて、グラスハウス(温室)を作ろうと思っています。そこでお茶の栽培もできるようにしたいなぁ、と」(檀さん)

 

 

 

 

二人による平面図のプランをもとに、実際の家づくりは群馬県の相崎工務店にオーダーしました。

理世さんいわく、「模様替えがしやすい家」というのが、いちばん重要なコンセプトだったそうです。

たしかに家族がいちばん長く過ごす2階のLDKは仕切りがなくて、気持ちのよい空間が広がっていました。

「家具を取り扱う仕事柄、わが家では家具替え、模様替えをすることが多いんです。たとえば、夏にはテーブルを違う場所に移動する、など。季節に沿って家具や暮らし方を変えていきたいので、部屋は細かく区切らないでください、とお伝えしました」(理世さん)

キッチンも、既存のメーカーのものはあえて選ばず。スウェーデンの自動車工場で使われていたという古いワゴンを調味料入れにするなど、お気に入りのものを使う工夫があちこちになされていたのも印象的でした。

 

 

 

家の中のほとんどをあまり作り込まず、自分たちで工夫をしたいと伝えたために、「工務店さんからは、”本当にこれでいいんですか?”と心配されたほどです(笑)」と、檀さん。

また、「軽井沢の家だから、テラスを作りましょうかと提案もいただいたのですが……。僕たちは共働きというライフスタイルなので、仕事が終わった後は夜も家族でくつろげるよう、テラスではなくて、部屋の延長として過ごせるサンルームにしてもらいました」とも。

 

理世さんは、「陽が入ってくる午前中の時間」。

檀さんは、「鹿が見えることもある、窓からの雪景色」。

二人それぞれの理由で気に入っているそのサンルームでは、夫婦でお茶を飲んだり、子どもたちがお絵かきをしたり。

春夏秋冬でさまざまな表情に変わる窓からの景色が、いつも家族のシーンを見守っています。

 

(窓から見える雪景色の写真は、檀さん撮影によるもの)

 

そして、家の中に置かれている、北欧の名作ヴィンテージ家具についても気になるところ。

サンルームのソファは、アンティークの革ボタンが可愛い、ボーエ・モーエンセンのもの。

手前にあるのは、アルヴァ・アアルトのテーブルです。

「これはもともと、ダイニングテーブルだったんです。玄関に置いてある、同じアアルトのベンチと足の部分を交換して、ソファに合わせて高さを低くしてもらいました。アアルトの家具自体は量産のものなので、そんなふうに、自分たちの生活の変化に合わせた使い方を楽しむことができます」(理世さん)

 

 

 

 

LDKの天井の一部も、家が完成した後にお気に入りの壁紙を選び、職人さんに貼り替えをお願いしたそうです。

「麻のオイルなど、天然素材を使用する技法のスエーデンの古い壁紙で、100年前の輪転機を使って作られています。

ヨーロッパの人はみなさん、古い建物をとても大事にされるんですよね。

この壁紙のメーカーも、元オーナーが何千本とある古い型のコレクターだったそうです。

古城の改修などで壁紙の型を持っているため、当時と同じものを作ることができるわけです。

たとえば、‘’これは○○というの街の、昔からあるお菓子屋さんの壁紙です‘’など、歴史的なストーリーがあるのが特徴ですね」(檀さん)

 

 

 

 

テーブルの足を替えたり、好きな壁紙を自由に貼ったり。

檀さんと理世さんのインテリアの発想がとっても自由なのは、スウェーデンの人々の暮らし方から学んだところが大きいと言います。

「北欧の人たちは、あまりルールにこだわりません。こうでなければ!というのはないんです」(理世さん)

 

「自分たちのやり方で、インテリアをどんどん変えて、暮らしを愉しむという意識が高いです。

たとえば、海外赴任をする間だけ、家を賃貸に出すケースもあって。

僕たちも居抜きの家に住んだことがありますが、持ち主のこだわりやセンスがそのまま残っているのもまた、面白かったですよ」(檀さん)

 

 

 

 

日本の場合、「新築の家なのだから、汚さないように、きれいな状態を保たなければ!」と、ちょっぴり肩に力が入ってしまいがちなのかもしれません。

汚れたらペンキを塗り直せばいいのだし、多少、床に椅子を引きずった跡がついたとしても、それはそれで住人の歴史です。

「ラフな感覚で暮らしているので、ピカピカな家よりも、むしろ古くなって風化していくプロセスを楽しみたいと思っています。だから、外壁もわざと仕上げていなくて。

これから年月を重ねて、グレーっぽい色にうまく風化していけばいいかな、と思うし、ちょっと傷ついたからと目くじらを立てなくてもいい。

そのほうがお金もかからないですしね(笑)」と、檀さん。

「お店に訪れるお客様からも、たとえばオーク材の家具をひとつ買われたら、‘’ほかもすべて、オークで統一したほうがいいのですか?‘’と聞かれることがあります。

でも、あまり統一性は気にせずに、お好きなものを選ぶことからトライされることをおすすめしています。

ヴィンテージの家具ですから、剥がれたり、錆びたりすることも含めて、経年を味わっていただけたら」と、理世さん。

 

二人の話を聞きながら、スウェーデンの人々の暮らしに思いを馳せるうち、敷居高く思い込んでいた北欧家具が、だんだん身近に思えてきました。

須長さん一家の家が、やがてどんなふうに時を刻み、カッコよく風化していくのか。

いつかまた、ぜひ訪れてみたいと思いつつ、私たちは森の家をあとにしました。

 

Column 暮らしの中の布使い

ダイニングテーブルにかかっていたのは、スウェーデンのリネンテーブルクロス。

「半乾きで、そのままシワをサササと伸ばして乾かせばアイロン要らず。

手間がかからないので、テーブルクロスも気軽に、日常に取り入れることができます」(理世さん)

 

 

 

訪ねた方

須長 檀・理世 

夫妻ともにスウェーデン・ヨーテボリ市HDK大学に通い、家具デザインやテキスタイルアートを学ぶ。

現地でデザイナーとして「SUNAGA DESIGN STUDIO(スナガ デザイン スタジオ)」を設立後、2009年に帰国し、

「NATUR Terrace(ナチュール テラス)」をオープン。

https://sunagadesign.com

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

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