わたしのパートナー

わたしのパートナー

my partner

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。

これがなくては始まらない、というものがあります。

ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。

連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

 

料理家・渡辺康啓さんのパートナー・前編

「スプーン」

 

長さ12cmほどのステンレスのスプーン。

形が丸っこいのは、実は子供用スプーンだから。

そして、持ち手にはうっすらとユーモラスなカバくんが姿を見せている。

「ほんとうはピンクのカバだったんですけど、すっかり剥げ落ちちゃいましたね」

 

料理家の渡辺康啓さんにマイパートナーを伺ったとき、その著書やインスタグラムの美しい写真と料理のイメージから、選ばれるのはなにか端正な品なのではないかと考えていた。

実際、渡辺さんの仕事場である自宅の台所には、愛用の品々がいつも出番を待っている。

大学生のときから使っているシンプルな水切りかご。生ゴミを入れる小さなコランダー。

ヴィンテージのデニム製エプロンは薄くなった生地を繕いながら大事に使っているし、シンクの脇には、(プラスティックがあまり好きではないから)美しいガラスボトルに洗剤を移し替えて置いている。

でも、渡辺さんが最終的に手に取ったのは、子どもの頃から愛用していて、今は料理の味見用として使っているこのスプーン。

 

「母に聞いても、いつどこで買ったものかわからなかったんです。大学生のときか、働きだしてからか、実家に帰った時に発見して連れて帰って以来、ずっと手元にあるんですよね。なんかね、とくになにも考えてないんだけど、つい手にするものってあるじゃないですか。このスプーンもそんなかんじで、ふつうに使うにはちっちゃいけど、味見用としては長すぎず短すぎず、ちょうどいいんです」

 

 

東京から、福岡市の今の住まいに引っ越してきて5年が経つ。

どうして福岡だったのか、よく尋ねられるけれど、明確な理由があったわけではないという。

 

「でも、初めて博多に来て駅をでた瞬間に、この街はすごくいいかんじだなと思ったんですよ。その1年間に10回は福岡に来たかな。イベントの仕事など縁もあったんだけど、1年後にはもう福岡に住んでました」

その行動力たるや。東京の友人たちのなかには渡辺さんが福岡に越したことを知らなかった人もいた。

「自分はあんまり言わないんです、心にあることは。行動してからようやく伝える」

 

渡辺さんの来し方は、たしかにその感覚と行動力によるものだったのかもしれない。

高校生の頃はファッションが大好きで、『ハイファッション』や『ヴォーグ』を読みふける男の子だった。東京の大学に進んで建築などにも興味は持ったけれど、相変わらずのファッション好きで、バイト代はぜんぶ洋服に注ぎ込んだ。

「大学よりも伊勢丹にいる時間のほうが長かったんじゃないかな」

卒業後の進路に、思い定めた就職先はコム デ ギャルソンただひとつ。

「ほかにどこも受けずに。何の仕事でもいいから、川久保玲さんのところで働きたいという気持ちだけだったんです」

最終面接で初めて出会った川久保玲さんとは不思議なほど自然に話ができ、渡辺さんは入社を果たす。このときも友人たちには事後報告だった。

「さすがに驚かれたり、怒られたり。母だけには伝えていて、1社しか受けないなんてと心配されましたが、なんと受かっちゃったという。われながら根拠のない自信でしたね(笑)」

そして会社に6年ほど在籍したのち、渡辺さんは料理家としての活動を始める。きっかけは、お世話になっていた知人の言葉だった。洋服の仕事をしながら料理も好きで、あるときその知人に頼まれて還暦祝いの料理をふるまった。

「料理家さんとのつきあいも多い人だったんですが、『渡辺くん、料理のほうに進んだらいいじゃない』って。料理は大好きだし、おもしろい。友人たちもすごくおいしいって喜んでくれていましたが、自分ではどれくらいのものなのか相対的にはわからなかったんです。でも、この人がそう言ってくれるんだったらだいじょうぶかな、って」

調理学校へ行ったわけでも、料理家の弟子についた経験もない。でも、子どもの頃からおいしいものと、それを取り巻く環境が大好きだった。地元・鳥取で、家族みんなでよく通った和食屋さん。学校帰りに一人で出かけ、仕込みの様子をずっと眺めて飽きなかった。

 

「その店の料理人さんは吉兆の出身で、その影響もあったのか、暮しの手帖社から出ていた『吉兆味ばなし』が大好きで。だから、自分でよく作っていたのも和食でしたし、教室の最初のメニューも和食だったと思います」

 

 

自宅の台所へ生徒さんたちが集まり、渡辺さんがポイントなどを話しながら料理を作って(デモンストレーション)、みんなで食べる。東京で始めた料理教室のスタイルは、生徒さんたちにまずは料理の味を知って欲しいからという思いから。

「作ってもらうことも考えたんですが、そうすると微妙に味が違ってきたりするから。でも、これが正解かどうか、他の教室のことも知らないから。まあ、自分でやってみないとわかんないですしね、なにごとも。けっこう、自分はやってみてから考えるタイプなので。あんまり考える前に動いてしまう」

 

Don’t’ think, feel !  そしてすぐさまMove ! な渡辺さんなのだった。

 

後編へつづく

 

special recipe

グリーンピースとブロッコリーのパスタスペッツァータ 

 

材料(4人分)

グリーンピース(鞘つき)300g

ブロッコリー 1/2株

新玉葱 1個

バジリコ 2枝分

パスタ 12本程度

オリーブ油 適量

塩 適量

 

作り方

1  グリーンピースは鞘から取り出し、水に浸けておく。鞘は洗ってとっておく。ブロッコリーは小房に切り分ける。新玉葱は粗みじん切りにする。

2 鍋にオリーブ油、新玉葱、塩を入れて炒める。水分が出てきたら蓋をして弱火に落とし、10分ほど蒸らし炒めにする。

3 グリーンピースの水気を切って加え、ブロッコリー、バジリコを加え、ざっと混ぜたら、最後にグリーンピースの鞘を乗せ、具材が8割がたかぶる程度に水を加える。蓋をして沸騰させ、弱火に落として30分煮る。

4  蓋を開けてグリーンピースの鞘を取り除いたら、パスタを手で折って加え、火が通るまで煮る。(水が足りなくなったら足してよい)

5 塩で味を調える。

6 器に盛り、オリーブ油をかける。

 

わたしのパートナーvol.2

渡辺康啓さんの[スプーン]

渡辺康啓●わたなべ・やすひろ 料理家。著書に『春夏秋冬 毎日のごちそう』『果物料理』など。「この時期、なにかできることをと考え、YouTubeでの配信を始めました」。リコッタチーズ、手打ちパスタ、ハムきゅうりサンドイッチなど、人気レシピを紹介。だんだん配信に慣れてくる渡辺さんの勇姿をごらんあれ。

www.youtube.com/channel/UCBbfL7CxrYzuHLDhJ0B5HkA

サイトでは、調味料、オリジナルステンレスカップなどの取り扱いも。

http://www.igrekdoublev.com/

 

写真・大段まちこ 構成、文・太田佑子

 

渡辺さんと一緒に試行錯誤して作ったキッチンクロスを下記で販売しています。

是非ご覧ください。

watanabe yasuhiro webshop

 

 

 

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