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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

 

12-side B 

愛情の根っこ

 

nounours books編集部がおじゃましているのは、CHECK&STRIPEの人気ワークショップ講師、「西山先生」こと西山眞砂子さんのご自宅です。

2年前、京都の住宅街に完成した可愛らしい新居は、ぽかぽかの陽気に包まれて、幸せそうな佇まいを見せていました。

(夫・直秀さんの定年退職をきっかけに、以前暮らしていた大阪・高槻市から京都へ、終の棲家を移したご夫婦のストーリーについてはside Aをどうぞ)

 

 

写真は、日当たり抜群!な2階。直秀さんがいつも読書をして過ごすという書斎スペースでは、愛猫きなこちゃんがすやすやお昼寝中。

 

 

 

新しい家での、新しい暮らし。年齢を重ねたからこその、「暮らし直しのいまが愉しい」という西山先生です。

「子育ての手も離れて、自分の時間が出来て。そして、好きなお仕事もさせていただいて。この年齢だからこそ、人生はまた、愉しめるようになると感じています」

西山先生からそんなお話を伺っていると、「歳をとってからも、人生ってまた面白くできるんだ!」と、これからの人生にもむくむくと希望が湧いてくるのでした。

 

 

 

玄関先には、色違いのかわいい電動自転車が仲良く2台。

「お引越しされて、夫婦ふたりの時間も増えましたか?」と尋ねてみました。

「増えましたね~。夫は以前住んでいた大阪の家で定年退職迎えたので、じつはそっちでも1年、リタイア後の生活は過ごしていたんですよ。でもそのときの1年よりも、いまの家で過ごす1年のほうが、お互いイライラすることがありません(笑)。家自体は前よりコンパクトになって距離も近いはずなのに、お互いの自由度は高まった気がします」(西山先生)

広い家のときよりも、暮らしの自由度が高まった理由。それは、「京都」という街の個性も大きいようでした。

「家からは、御所や美術館も近くて、お芝居や落語など、文化的環境が整っているから、二人で出かけることも多くなりましたね。徒歩で15分の賀茂川(上流は、「賀茂川」の表記だそう)には珈琲を持って、チェアリングを楽しんでます。そうそう。朝はウォーキングしながらほぼ毎日、ふたりでトング片手にゴミ拾いをしているんですよ。“京都の街を汚さんといてね~”と思いながらね。前の家では、そんなふうに過ごすことはなかったです」(西山先生)

 

 

 

そして、ひとり時間では、好きな喫茶店やギャラリーに行ったり。「この取材の前日も、夕方ギリギリに知り合いのカメラマンさんの個展に行ってきたばかりでした」とのこと。

「違う空気を吸いに、散歩がてら出かけます。京都は若い作り手が多いので、引っ越してきてからいろんな方と知り合って、新しいご縁も広がりました。大人気のle murmure(ミュルミュール)という焼き菓子屋さんや、素敵な雑貨屋のhisoca(ヒソカ)さんでは不定期にワークショップをさせていただいてます」(西山先生)

 

 

 

京都の街からは、新旧の文化のエネルギーを。

そして新しい家の中では、「このキッチンから、部屋の中をぼーっと眺めている時間がいちばん好きです」と、西山先生。

 

 

 

 

好きな街と家で充電されたエネルギーの向かう先は…というと、それはやっぱり「ミシンの時間」。

コンパクトな家では、リビング全体がアトリエになっているそうで、たとえばミシンがぴったり収まるように、サイズ(幅と奥行き)にあわせて収納棚が設計されていたり(写真上)。そしてその収納台は、写真(下)のように、ミシン台へと早変わり。

「この作業台での時間は、結構長いですね。ワークショップを行うときは、とにかく準備に時間をかけるんです。だから毎日数時間は、ここで何かしらの作業をしていますね」(西山先生)

 

 

写真は、西山先生の相棒ミシン。ずっしりと重厚なミシンは、もう40年も活躍しているという愛用品。

 

「このミシン、じつはわたしの嫁入り道具なんです。当時、編み物を習っていたときの“メーカー積立貯金”みたいなものがあって、満期になるとそのメーカーの電気毛布か、編み機か、ミシンか、どれかを選ぶことができるんですね。3択のどれにするかで迷ったんです(笑)。結局ミシンを選んだのですが、まさかそんなに長い間使う商売道具になるとは、ゆめにも思っていませんでした」(西山先生)

 

 

 

西山先生が自身のワークショップで大切にしているのは、「ちゃんと時間内に仕上がって、その日から使える状態で、持って帰っていただける」ということ。

そのためには、参加した生徒さんが一から布を裁断しなくてもいいように、先生による「ちょっとした段取りと、準備」が欠かせないそう。

「お料理やお菓子のお教室では、出来たものをいただけるし、持ち帰るおみやげがつくことも多いし、それってとってもうれしいですよね。同じようなうれしさを、手芸のワークショップでも味わっていただきたいなと思っているんです」(西山先生)

 

 

 

結婚後、主婦業をこなしながら幼稚園ママたちを中心に、自宅でパッチワークを教え始めたという西山先生。当初は小規模で教えていたけれど、それがどんどん口コミで広がって、同時に生徒さんの数もどんどん増えて……。以前の家では、一ヶ月に延べ100人くらい(!)の生徒さんを教えていたこともあるのだとか。

「出来上がった作品を、みなさん本当に喜んで持って帰っていかれるんです。たとえばかばんを作る日は、持ってきたものと完成作品、中身を入れ替えて帰られたり。あるときは、以前の作品を持ってきて、“いまも大事に使ってます”とうれしそうに見せて下さったり。だから辞めたいと思ったことは一度もなくて、いまは自宅教室はしていませんが、京阪神エリアの好きなお店での,“旅するお針仕事”*など、自然といろいろな形でワークショップも続いているんですよね」(西山先生)

*「旅するお針仕事」という名のワークショップのこと

生徒さんからの「楽しかったです!」の言葉や笑顔が、本当に講師冥利に尽きるのだ、とも教えてくれました。

生徒さんたちにはもちろんのこと、夫の直秀さんにも、息子さんたち一家にも、そしてわたしたち編集部に対しても。

「喜んでもらいたい」「愉しんでもらいたい」の気持ちが尽きることなく溢れている、西山先生の大きな大きなハートに触れたひととき。

「その愛情の根っこは、一体どこから生えてくるのかなぁ」

素朴な疑問の答えはきっと、ものづくりから生まれる、たくさんの人の「うれしい・たのしい」笑顔のはずで、その喜びの循環がまた、西山先生の愛情をどんどん大きくしているのかもしれませんね。

 

 

Column 暮らしの中の布使い

 

 

 

 

キッチンの隅に置かれていた椅子の座面も、集めている端切れを使ってパッチワークされたもの。

「パッチワークをするときはいつも、好きな音楽を聴きながら、手を動かしています」(西山先生)

 

訪ねた方

西山眞砂子

手芸デザイナー 京都府在住


CHECK&STRIPE、NHK文化センターなどでレギュラーレッスンを開催。京阪神を中心に広く活躍中。
著書に「西山眞砂子の暮らしによりそう布小物」(アップオン)、「旅するお針仕事」「暮らしまわりのお針仕事」(主婦の友社)がある。

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

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