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わたしのパートナー

わたしのパートナー

my partner

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。

これがなくては始まらない、というものがあります。

ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。

連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

 

Uf-fu(ウーフ)オーナー

大西泰宏さんのパートナー・後編

「身体」

 

 

 

なるべく食品添加物はとらない。

身に着けるもの、使用するものを天然素材にする。

とくに茶葉の買い付け期間中はアルコールを飲まない。

穏やかに過ごし、早寝早起きし、風邪はひかないように。

自分の求める紅茶のおいしさを感じとるために、身体をきれいに保つ。

そんなストイックな生活を送る大西さんだが、紅茶との出会いを聞くと、にっこりと大きくほほえんだ。

 

「ほんとにミーハーな話でつまらないんですけど。高校生の時に、家に誰かからいただいたトワイニングのティーバッグのアソート、つめ合わせセットがあったんです。それを見て、わあ、かっこいい!って」

ちょっと大人っぽい深みのある様々な色合いのパッケージ。いろんな味がぎっしりきれいに並ぶ詰め合わせ。

「なんだかよくわからないんですけど、自分もこんなかっこいいものを扱う仕事がしたい、ってそう思って」

 

 

 

トワイニングのアソートパックにそんな作用があろうとは。

「そうそう。あの……思い立ったが吉日の人間なので、これだ!って。でも当然、どうしていいかはわからない。ただ、輸入元の会社に就職するというのは、生意気にも違うような気がして。だから、どこかの紅茶店で働こうと思って、父に伝えたら、『どんな仕事をしてもよいが、一度社会を見てからにしなさい』と」

まずは父親の勧めどおり、地元企業に3年務めてみた。しかし、ある日、紅茶専門店の前を通りがかったときに発見してしまったのだった。「社員募集」の張り紙を。

「これだ、と。もう、お願いします!という気持ちでしたね」

 

企業に務めていたときも、ことあるごとにいろいろな紅茶を買い集めていた。おいしいと聞いたお店にもでかけてみた。昔の話になると「ミーハーなんです」と笑うけれど、今に続く紅茶への一途な思いの始まりだったに違いない。

 

 

 

紅茶専門店では販売員として働いた。たくさんのお茶を扱っているし、お茶について好きなだけ勉強ができる環境。しかし、このお店で働いて3年目のある日、お客さんにいただいた中国茶が大西さんの人生を変える。

「東京の中目黒にある岩茶房の極品肉桂でした。あまりにもおいしいお茶、まったく知らない世界観で。こんなお茶を作っている人がいるんだ。作り手さんに会いたい。うん、そうだ、中国へ行こう」

そう決意したのだった。

 

 

 

思い立ったが吉日。大西さんは、ある日上京して岩茶房を訪ねた。

「今思うと冷や汗ものです。なんの約束もなしにおじゃましたんですから。出張中だった店主の佐野さんのお帰りを待たせていただいて。でも、佐野さんは『ああ、わかったそういうことね。感動したから会いたいのね』っておっしゃってくださって」

極品肉桂の生産者さんへの紹介状を書いてくれたのだった。

ただ、さすがに言葉が喋れないと作り手さんとコミュニケーションが取れないということはわかっていた。

「じゃあ、語学留学をして、少し喋れるようになったら会いに行こうと」

北京へ留学することにした。

その後、産地を訪ね、感動したお茶の作り手さんと出会えたことは、今の大西さんの土台となった経験でもある。

「どんな場所で、どんな風景で、どんな人がお茶を作っているのか見たい。いまだにそうです。見たものしか信じない。自分が見たもの、感じたものだけが真実だと思っています」

大西さんの北京留学は1年の予定だったけれど、半年ほどした頃、父親が亡くなり、帰国。その後はしばらく家から出られない時期が続いたという。

「いったん家から出なくなると、足が踏み出せなかったんですよね。その時、見かねた母がもう一度中国へ行くことを勧めてくれ、今度は上海で学ぶことにしたんです。あのままだったらどうなっていたんだろう。一歩だけ前に進む勇気が必要だったんだと思います」

学びを終え、半年後に帰国。そろそろ自分で何かを始めようと、2002年に創業したのがウーフだった。

 

 

「用の美」が大好きだった大西さんは、北欧で長く使い続けられてきた家具を買い集め、気軽にお茶を楽しんでもらえる空間づくりに着手した。そして、お茶を商う上で最初に決めたことは、自分が本当に好きなもの、魂に触れたものだけを扱うということ。そしてもうひとつ、

「もっと多くの方々にお茶を好きになってもらって、生活に根付かせたい。生活の一部に取り入れてもらいたいということです。日本で紅茶というとアフタヌーンティー文化ばかり注目されますが、イギリス人にとって紅茶はそれこそ日常茶飯事のこと。ウーフの店に北欧家具を選んだのは、イギリスのアフタヌーンティー文化とは違うお茶の文化を感じてほしかったから。お菓子とお茶の時間はもちろん、食事に合わせてもいい。紅茶というものをもっと気軽に楽しんでほしい」

それは、今に至るまで変わらぬ大西さんの信念といっていいものだろう。

「そうですね、今でも思うんです。つまり、社会貢献ができなくなれば、お店を続ける意味がない。お客さまひとりひとりのリフレッシュだったり、リラックスだったりに貢献できているといい。さっきもお話ししましたが(前編参照)、お金を払って紅茶を買ってくださるということはうちのお茶に投票してくれているということ。私たちのやっていることに価値を見出して、認めてくださっているわけで。それに対しての等価交換という意味で、私たちはできる限りの誠意をもって適切なお茶をだします、と。お客様と私たちがイーブンであるべきだと思うから、うちの店は営業もほとんどしませんし、本当に気に入っていただけているなら、ぜひお願いします、そんな気持ちでやっています」

そして、大西さんはいたずらっ子のようにくすくす笑いながら言葉を継いだ。

「でもね、思うんです。20年もウーフを続けられて、私の当時の思いは間違ってなかったんだなと。ほんと、昔の自分にビデオレターで伝えてあげたい。『おーい、やすひろ~。お前はがんばったよ~』って(笑)」

 

 

 

●わたしのパートナーvol.12後編

大西泰宏さん

「身体」

おおにし・やすひろ●紅茶専門店を経て中国に留学。2002年に兵庫県芦屋市にてティールームを備える紅茶店ウーフを創業し、おいしい紅茶と居心地の良い空間を提供するお店として人気に。2018年に南青山に支店を開設する。店名は絵本『くまの子ウーフ』に由来。

 

上の写真のバッグはウーフの創業20周年を記念してCHECK&STRIPEが制作したもの。現在オンラインで発売しているのはピンクバージョン。

https://www.uffu.net/

https://www.instagram.com/uffu_tea/

●ウーフ芦屋

兵庫県芦屋市朝日ヶ丘町28-25 

TEL:0797-38-4788

●ウーフ東京

東京都港区南青山6-3-14 サントロペ南青山302

TEL:03-6450-6998

両店とも現在は茶葉の販売のみ行っています。芦屋店のティールームの再開など最新情報はサイト、Instagramをご確認ください。

 

写真・大段まちこ 構成、文・太田祐子(タブレ)

 

 

 

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