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わたしのパートナー

わたしのパートナー my partner 

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。 これがなくては始まらない、というものがあります。 ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。 

連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはな

らない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

たくまたまえさんのパートナー・後編

「お弁当づくり」

 

 

 

お弁当づくりは、朝いちばんのルーティーン。

「空が明るくなったら、気持ちよく起きる。夏の朝はけっこう早くて6時には動き出すかな。最初にとりかかるのはお弁当づくり。ほんとはそんなに慌てなくていいんだよ。だって、主人は11時に起きてくるんだから。でも、お弁当を作っておけば、そのあとが楽だから」

それから自分の朝ごはんを食べ、掃除や洗濯をして、午後は20年来続けているテニスを週3回、もしくは保存食づくりなどして過ごす。

たくまさん自身の朝ごはん(か昼ごはん)もお弁当なのかと思ったら、毎日作るお弁当はひとつきり、夫のぶんだけ。なおさら道具類が小さいのも頷ける。

毎朝のお弁当づくりがなくなったら楽になりますか?と聞いてみたら、ちょっと考えて、

「うーん、意外に手持ち無沙汰になると思う。年に何日か作らない日があるんだけど、リズム狂っちゃうかんじ。それでもさ、なんか作りたくない時もあるわけじゃん。そんなとき主人に『私は休みなく毎日毎日ね』って言うと 『たまちゃんさ、じゃあ、日曜日はお弁当休む?』って。でもそう言われるとなんだかなあって。だから作りたくないときはそうするって伝えて。でもたいがいは作れるの。なんだかんだ言って」

それはやっぱり愛なんですかねえ、と持ちかけると

「愛はうっかり入れ忘れちゃうものなのよー」と茶目っ気たっぷりの答えがかえってきた。

 

 

 

たくまさんといえば、季節の保存食を思い出す人も多いかもしれない。

とくにらっきょは、運営するサイトでもあっという間に売り切れる大人気商品。

「これはねえ、義母から受け継いだレシピ。教えちゃだめよ、って言われたけど、本にものせちゃってる。だから自分でも作れるのよ、みんな!って思うんだけど」

そのレシピが掲載された『たまちゃんの保存食 季節を楽しむ12カ月の台所仕事』は、2011年発売『たまちゃんの保存食』が15年に増補版となり、さらに19年に新版として刊行されたロングセラー。春夏秋冬に手作りできる保存食と常備菜を86品紹介している。

「そう、お弁当の本より保存食のほうが先なの。こっち(府中市)に引っ越してきたら、近所に畑があって路地野菜を売ってたりする。あるとき葉唐辛子を売ってて、佃煮が大好きなんだけど自分で作れるとは思ってないじゃない。でも、畑のおばちゃんは、『作れるわよ』って。それで作ってみたら、あれ? かんたんだし、おいしい。そうやって、どんどんいろんなもの作ってたら、本をだしませんかと声がかかったのね」

 

 

 

この日、お茶にと出してくれたのも、たくまさんが手作りしたチャイティーシロップを豆乳で割ったものだった。ほんのり甘くて、スパイスの香りが喉に抜けてさわやかな味。

「ほかにも、しょうがをカルダモンなどのスパイスで煮たスプリングシロップとかも。こういうのを作ってるときは、もう家中インドみたいな香りがしてるのよ」

シロップは、牛乳で割ってもいいし、バニラアイスにかけてもいい。

「ハーゲンダッツとかスーパーカップ、どっちもおいしい。カップの真ん中をスプーンでしゃくって、そこにかければいいの。幸せよ~」

 

 

 

 

季節季節の保存食を作るけれど、なんといっても忙しいのは6月だ。

「やっぱりらっきょよね。だいたい6月の頭から20日間くらい延々とらっきょの皮を剥いてるの。想像以上でしょ? 1日8時間から10時間」

時には友人の手を借りて、でも基本はひとりで。

苦にならないんですかとたずねると、

「苦になるわよ~。剥いてる間、気分が盛り上がったり、もう見たくないってなったり。で、だんだんだんだん手が慣れてきて、すごいスピードが出るようになる。でも、大きさが無選別のらっきょを頼んでるから、ちっちゃいのが多いときは時間がかかる。いろいろなのよ。そうこうしているうちに、今度は梅干し用の小梅がどーんと届いたりして。」

しかも、庭に植えているすもももの木も、6月の終わり頃にはたわわに実をつけるという。

「採っても採っても追いつかない。おおげさじゃなくて700個くらい実がなる。でもさ、ときどきすももの木の下でビールを飲んだりするの。アペロね。最高においしくて、気持ちのいい時間」

 

 

 

まだ実をつけるには早い時季だったけれど、ちょうど西日が差して、アペロタイムとあいなった。

たくまさんはすももの木を見上げ、

「実がなったら、鳥が赤いところ、甘いとこだけ食べていくわけ。そうそう、びっくりしたのが、去年、知らないうちに鳥の巣ができてて。葉が落ちてから気づいたの。私が撤去しようとしたら、主人が戻ってくるかもしれないからそのままにしとこうって。でも不思議なの。実をもぐから、さんざん木を見てるはずなのに気づかなかった。おもしろいよね」

庭には、ねぎや山椒、柚子。ミントやレモンマートルなどのハーブもたくさん植えられている。

「お湯にいれるといい香りよ、マートル。すごく落ち着く香りなの」

たくまさんは歌うようにそう言うと、愛おしげにその葉に手を触れる。

毎日、夫の健康を支えるお弁当を用意して、季節の野菜や果物で自分の作れるものを作り、人に分け、テニスを楽しみ、夕方に最高においしいビールを飲む。

あたりまえのように見えるけれど、豊かな幸せがそこにある。

 

 

 

●わたしのパートナーvol.11後編

たくまたまえさん

「お弁当づくり」

たくまたまえ●結婚を機に移り住んだ府中市で、季節の野菜や果物で保存食を作るように。ワークショップなどで注目を集め、『たまちゃんの保存食』(マイナビ出版)が誕生、ロングセラーに。他の著書に毎日のお弁当づくりをまとめた『たまちゃんの夫弁当』(主婦と生活社)など。季節の保存食やお気に入りの台所用品などを不定期にサイトで販売している。http://takumatamae.com/

 

写真・大段まちこ 構成、文・太田祐子(タブレ)

 

 

 

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