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わたしのパートナー

わたしのパートナー my partner 

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。 これがなくては始まらない、というものがあります。 ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。 

連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはな

らない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

たくまたまえさんのパートナー・前編

「お弁当づくり」

 

 

 

白いタイル。

小さな片手鍋。

ぶら下がったバナナ。

ステンレスの丸いざるに

換気扇のひさしにのったアルミの小鍋。

ガラスで仕切られたコックピットのようなキッチンをのぞくと、

白とシルバーが基調となった気持ちのいい空間があらわれた。

たくまたまえさんのパートナーはお弁当づくり。

ここで毎日、夫のためのお弁当を作る。それが自分にとってのルーティーン

で、欠かせないことなのだと教えてくれた。

 

 

 

 

「1年365日のうち360日くらい?」

毎日のお弁当づくりについて、どれくらいの頻度で作るのかたずねると、きょろりと目を動かし、キュートな笑顔でそう語る。

たくまさんのお弁当作りが始まったのはだいたい10年以上前のこと。

写真家の夫の経理作業をしていたら、来る日も来る日も中華弁当を食べていることに気がついた。

「中華弁当ていっても和食っぽいものもあるらしいんだけど、やっぱりバランスがよくないだろうなと思って、私、お弁当作れるよって言ってみたの」

最初は「いいよ、いいよ」と言っていた夫も、あるとき試しにお弁当をもたせたら大満足。そこからだいたい、ほぼ毎日お弁当を作っている。

「主人は土日も必ず事務所に行くの。事務所が書斎代わりみたいなかんじで。だから、 ほんと、ほとんど毎日お弁当を作ってるんじゃないかなあ」

 

 

 

この日のお弁当のおかずは、きゅうりとみょうがのポン酢和え、れんこんの黒酢きんぴら、ささみフライにひじき煮、パプリカのごま和え。小さく切ったたくわんをごはんの真ん中に置いて、その上に自家製の梅干しをちょんとのせ、

「いけない、忘れてた!」

ゆで卵を半分に切ってのせたらできあがり。

水色のギンガムチェックの布でキュッと包んでいつものスタイルが完成する。

欠かせないのは、小梅の梅干し、ミニトマト、ゆで卵くらいで、お弁当のためにとくべつ凝ったことはしない。

「そうなの。主人もふつうのおかずがいちばんおいしいって言うしね」

でも、ひとつひとつおかずを作るのはたいへんじゃないですか? そう聞くと、

「ううん! ほんとかんたんなものしか作ってないから」

おかず作りの中身を教えてもらうと、

「ささみのフライは、ささみを塩麹に漬けて揚げるだけの、もう安定の定番料理。塩麹は買ったもので、漬けるのも朝お弁当を作り出すとき、いちばんに仕込めばいいくらい。ブロッコリーは茹でただけ、トマトも切っただけ。ひじきは昨日の夜の。パプリカは弱火でじっくり焼いた後に塩してごまと和えただけ。パプリカは、全部を薄切りにして炒めとけば、ごま和えにしたり、ワインビネガーをかけてサラダっぽくしたりできる。色々なパターンで使います」

色合いは、ミニトマトやブロッコリーで調整することが多いけれど、茶色いお弁当でも全然かまわない。

「うん、全然。茶色いお弁当、おいしいよね。私が気にするのは色合いより、味のバランスかな。酸っぱいとか、しょっぱいとか、食感が柔らかいか硬いか。そっちのほうがおいしさにかかわってくると思う」

 

  

 

ごはんは、毎朝、ウエストサイド33の小鍋で炊く。段付きでふきこぼれず、土鍋に比べて乾かすなどの手間もかからない。サイズはいちばん小さな1合用。2人暮らしなので、ふだんから使う道具はこぶりなものが多い。

見渡せば、たしかに、壁にぶらさがっている小鍋は直径10cmくらい。調理に使うボウルや、揚げ物を受けるザルやトレイも手のひらより小さい。

「なんかね、ちっちゃいのが好きなの。料理しててぴたっと収まるかんじ。お店で探して見つからなかったら、ネットでも探すし。もともと、料理をあまり大きく作らない。食べきるサイズで作りたいの。だから作り置きはあまり好きじゃなくて。たとえばひじきの煮物とかも、夜煮るじゃない? で、夜食べて朝お弁当に入れて、それで終わりにしたい。気持ち的に持ち越したくないの」

 

 

 

「今日はさ、みんなで食べようと思って!」

ひとしきりお話しを伺ったあと、たくまさんからのサプライズ。取材班にもお弁当を用意してくれていたのだった。

――わあ、かわいい。

――ね、見た目が違いますね。お弁当箱がちがうと、同じおかずでもぜんぜん違う表情!

「そうだよねえ。やっぱりさ、プラスチックよりわっぱのほうがすてきだと思うよね」

たくまさんがそう言うわけは、ご主人のリクエストにあった。

「主人はさ、木のお弁当箱は重たいし、洗うのに手間がかかるから、ジップロックとかタッパーみたいのがいいって。お弁当箱、ほんとにいろいろあるんだけど」

 

 

 

 

お弁当箱が入った棚を見せてもらうと、鈴竹で編んだもの、わっぱ、竹細工、ステンレス……いろんなお弁当がひしめきあっている。こんなにかわいいお弁当箱がたくさんあるのにプラスチックでいいと言われたら、たしかにすこしうらめしい気持ちになってしまうかも。

「まあ、でもいいの。本人の使い勝手がいいのがいちばんだからさ」

からっと笑うたくまさんなのだった。

 

 

●わたしのパートナーvol.11前編

たくまたまえさん

「お弁当づくり」

たくまたまえ●結婚を機に移り住んだ府中市で、季節の野菜や果物で保存食を作るように。ワークショップなどで注目を集め、『たまちゃんの保存食』(マイナビ出版)が誕生、ロングセラーに。他の著書に毎日のお弁当づくりをまとめた『たまちゃんの夫弁当』(主婦と生活社)など。季節の保存食やお気に入りの台所用品などを不定期にサイトで販売している。http://takumatamae.com/

 

写真・大段まちこ 構成、文・太田祐子(タブレ)

 

 

 

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わたしのパートナー

 

 

 

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