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しあわせなお店めぐり 「神戸」

 

 

「このお店の近くに暮らしていて、本当によかった!」

大好きなお店がご近所にあるというしあわせに、ちょっと大げさ?かもしれないけれど、

こころが震えるほど、嬉しくなってしまうことはありませんか?

ひとりでも行きたい。

大切な人とも行きたい。

CHECK&STRIPEの本拠地・神戸にも、そんな大切なお店がたくさん。

編集部自慢のFavorite Shopについて、ご紹介します。

 

 

7 良友酒家

 

 

 

一見、「春巻きかな?」と思ったのは、上の写真のメニュー。でも、「あぁ。これは“玉子巻き”(1600円/税込)のほうです。春巻きのメニューと、よく似ているんですけどねぇ」と笑いながら言うのは、「良友酒家」の潘秀莉(ばん しゅうり)さん。ここ「良友酒家」の創業は平成元年。神戸元町にある広東料理店で、秀莉さんは、料理人の店主夫妻の娘さん(次女)です。

「具材に春雨や干し椎茸などを入れて、玉子で巻いてふわっと揚げるのが、北京式の玉子巻き。でも、一般的な春巻き派の方もいるし、この玉子巻き派の方もおられるから、お客さんのお顔を見て、“あぁ、玉子の方やったねぇ”と思いながらお出ししているんです」(秀莉さん) 

そして、「この玉子巻きのほうが鉄板メニュー」というのは、CHECK&STRIPE代表のlabmiさん(在田佳代子さん)。なので来店したlabmiさんを見ると、春巻きではなく、この玉子巻きのほうがスッと出てくる、というわけなのでした。納得!

 

 

 

 

「神戸の山の手にあるお店です。店主のお父さんとお母さんの顔を見るとエネルギーをもらえるし、大好きなメニューがたくさん! スタッフや家族とも、よくおじゃましています。そして毎年忘年会は、こちらを貸切にして行っています」(labmiさん)

写真(上)は、前菜のミル貝の味付け(2600円/税込)。ミル貝の上に、たっぷりの白髪ねぎ、熱々の油をかけていただきます。写真(下)は、レモン鶏(1500円/税込)。labmiさんいわく、「お店で、“絶対おいしいから食べてみて!”とおすすめされたのが、この2品でした。それ以来、必ず注文しているメニューです」とのこと。

「CHECK&STRIPEで行われたワークショップのときに、良友酒家さんには、焼きビーフンでランチメニューを作っていただいたこともあります。ワークショップで中華のお弁当を出したのは初めてだったのですが、参加してくださった生徒さんたちからは歓声が上がりました!」(labmiさん)

「ふつうのお弁当とはひと味変えたい!と思って、焼きビーフンにお粥をつけて、ご提案させてもらいました」とは、前出の秀莉さん。うーん、美味しそう!

 

 

 

さて、そんなみんなの鉄板メニューを作り続けているのは、地元神戸出身、現在72歳になるお父さんです。写真は、お店の壁に飾られていた、お父さんをモデルにした切り絵。神戸を中心に全国の名店の職人を作品にすることで知られている切り絵作家・成田一徹さんによるものだそう。

「朝5時にお店に出勤すると、まずはうちの店のベースとなるスープを炊きはじめます。やがてランチ営業が終わると椅子に座って、うとうとと仮眠して、またディナーの料理をつくりはじめる。それが、長く続く父の毎日です」と、秀莉さん。

趣味はなく、お金儲けにも興味はなく。「料理を作ること。そして家族の存在だけが生きがい」というお父さんのルーティンはもうひとつあるそうで、なんとそれは、子どもたち(&孫たち)の翌日のお弁当もつくること!「“また明日ね”と、家族にお弁当のおかずを持たせて、ようやく父の、長い一日は終わります」

 

 

 

 

写真(下)は、ネギ生姜和えそば(900円/税込)。

 

そんな家族思いのお父さんのエピソードは、もう少しだけ続きます。

家族の誰かが病気になると、「何もできへんけど、これだけは持っていきなさい」と泣きながら電話があった後、まかない用の特製スープが届くのだそうです。それは、いつものベースのスープに、漢方や野菜からとった出汁を入れて作るというスープのことで、消化にいいよう、あえて具材はなし。

「これが不思議で。どんなに食欲がないときも、父のスープだけはスーッとからだに入るし、まるでおくすりのように、飲むと本当に元気になるんです」(秀莉さん)。

残念ながら、家族のための特製スープをいただくことは出来ないけれど、お店でいただくスープにだってもちろん、長年にわたる特別な魔法がかかっていました。

「以前、鶏ガラなどから出る食材の生ゴミを減らそうと思ったようで、父は粉砕した骨で作ったスープをお出ししたそうなんです。すると常連さんからすぐに、“あれ、味変わった?”と言われたとか。そこできっぱり、“あ、その作り方は今日でもう辞めますね”と、父はその場で宣言したんです」

 

 

 

「料理の味はスープで決まる」というのがお父さんの口グセ。写真(上)は、シンプルなのに滋味深いスープが味わえるネギラーメン(750円/税込)。

この魔法のスープについては、labmiさんからも、こんなエピソードを伺いました。

「CHECK&STRIPEの神戸店がオープンして多忙を極めていたとき、秀莉さんから店にお届けものがありました。なんと、それは一升瓶に入れられた良友酒家さんのスープ! 本当にやさしい味で、滋養が体にすーっと入ってきて。みんな、すっかり元気を取り戻したんです。今回、お父さんのスープのお話を伺って、改めて、“あ、あのスープ!だ”と、またそのときの感動が蘇ってきました」(labmiさん)

 

 

その大きさに、まず驚く中華プリン(1900円/税込)。上で紹介したネギラーメンともに、多くのお客さんの「締め」メニュー。labmiさんも「わたしもここにくると、最後に必ず、この大きなプリンを注文します。あっさりしていて、かわいくて。訪れた方にはぜひ、注文していただきたいです」とのこと。

さて、お父さんにとって「家族と料理」が人生のテーマとなったのは、手間ひまを惜しまない料理を作り続けた自身のお母さん(おばあちゃん)が、その所以だったのでした。料理上手なおばあちゃんのことを、秀莉さんはよく覚えているのだそう。今では姉妹店を経営する弟さんとともに、「おばあちゃんの味」の研究もしているのだとか。じつは、labmiさんも感動した「焼きビーフンとお粥のランチ」も、このおばあちゃんの味の再現だったそうです。

「おばあちゃんのごはん、こんな味だったな。こんなふうに下処理してたな、という記憶があるんです。なので高校生くらいのときに、“おばあちゃんの味、まだ越えてないよ”と、生意気にも父に葉っぱをかけたことがあったようなんです(苦笑)。あとで父から、“なかなか越えられない味だけど、おかげで奮い立たせてもらったよ”と言われました」(秀莉さん)。

 

 

良友酒家でいただける、「おばあちゃんの味」といえばこの一品。写真は、蒸し器で作るという「豆腐のミンチ蒸し」(1500円/税込)。

「これはおばあちゃんの十八番メニュー。子どものころ、琺瑯の器でよく出してもらいました。柔らかいし辛くないので、離乳食にもなるんですよ」と、秀莉さん。広東料理では、炒めものをしている間に出来てしまうことから、蒸し料理は必ず一品、メニューに入る暗黙のルールがあるのだとか。

「お店に行くと、秀莉さんからおばあちゃんのこと、ママのことなど、ご家族のお話を伺うことがとても多いのですが、その度に温かな愛情を感じます。うちの孫が赤ちゃんのときも、子ども用の椅子や器など、至れり尽くせりにご用意くださったのですが、それも家族の絆という背景があるからだなぁと思います」(labmiさん)

「良友酒家」のお店のある地域は、戦後の時代からずっと、華僑の人たちが助け合い、協力しながら、商売を営んできているのだそうです。だからなのか、世界的パンデミックの影響を受けている今も、「高齢なのだから、少し休んだら」という秀莉さんの心配をよそに、「こんなときほど、街に灯りをつけないとあかんのやで。震災のときのこと、思い出してみ」というお父さん。

お父さんにとって、日々厨房に立ち続けること。

そして働くことはきっと、「生きること」と同義なのでしょう。

良き友のために。そして愛する家族のために。今日も、明日も。

 

 

廣東料理・火鍋 

良友酒家

神戸市中央区中山手通3-11-8

078-221-5866

営業時間 

昼 11:00~14:30  

夜 17:00~20:00    

定休日

月曜(そのほか臨時休業の場合あり)

写真 大段まちこ 取材・文 井尾淳子

 

 

 

しあわせなお店めぐり

 

 

 

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