nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。
家のこと。部屋のこと。
ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。
私たちは昨年11月にパリにお住まいの遠藤カホリさんを訪ねました。
「room story」side A、side Bとしてお届けします。
01-side B
「みなさんもどうぞ!」の食堂から
「まさに、あのお部屋に暮らす人のお店と料理だ!」
瞬時にそう感じたのは、パリ11区にある小さな食堂『Le Petit Keller(ル・プチ・ケレール)』。
有機(Bio)食材や野菜、穀類などを中心としたメニューが人気のお店です。
1940年台から存在するこのお店は、代々オーナーが交代しても店名はずっと同じ。
“ケレール通りの小さな食堂”という意味合いなのだそうです。
side Aでは、この店のオーナーシェフ・遠藤カホリさんのご自宅を訪ねました。
赤や緑のテーブルに、ブルーの壁、黄色いタイルのキッチン。
そして中央には、螺旋階段のある古いお店。
ここは、「パリの下町にある、通いたいビストロ」として、
カホリさんが心の中でずっとイメージしていた食堂です。
写真上 本日のベジタリアンプレート(17€) はランチタイムの看板メニュー。
写真下 マッシュルームのコンフィと小豆のフムスは各6€
そば、シャンピニオン、小豆。
有機(vio)食材や野菜、穀類をたっぷり使ったメニューは、
カホリさんの家で感じた空気と同じ。
いろいろな素材の味が際立ちながらも、すべてが混ざり合って調和して、
そのはじめて味わう美味しさは、今もイキイキと蘇ってくるほど。
フランスの家庭料理がベースであっても、
中華のような、和食のような、ジャンルもスタイルも、とにかく自由そのもの!
写真上 BIOサーモンの刺身丼(16€) *煮卵付きは+2€50 丼ものはランチタイムのみ
写真下 赤いフルーツのパブロヴァ(9€)
軽井沢生まれの軽井沢育ち。
新鮮な野菜や果物、乳製品などの食材に恵まれて、
たくさんの有名レストランが軒を連ねるこの土地。
カホリさんは14歳の時から、軽井沢にある大きなホテルや高級イタリア料理店など、
いろいろなレストランで働いてきたのだとか。
高校生の時には、ご両親がテニス仲間というご縁から、
画家・料理家の玉村豊男さんのワイナリーで泊まり込みで働き、野菜作りなども教わったそう。
高校卒業後は、イギリスへ2年間留学したカホリさん。
旅先で訪れたパリではたくさんの美味しいものに出会い、パリに魅せられ移住。
23歳で結婚、出産。子どもを育てながら、食まわりのライターや翻訳の仕事を経て、
30歳で料理の仕事をはじめました。
写真は、ローズマリーシロップのレモネード(6€)
パリで料理の仕事をはじめたきっかけは、「ローズベーカリー」との出会い。
ロンドンで取材した際、「厨房に入ってみたい」というカホリさんに、
「パリの新しい店のシェフにならないか」と声がかかりました。
「家庭料理のよさを尊重しているお店だったので、
きっと、シェフ然としていないところがよかったのかもしれませんね」(カホリさん)
ローズベーカリーで3年勤務したころ、
パリで有名なナイトクラブ「ル バロン」などを経営しているオーナーからの依頼で、
「nanashi(ナナシ)」というカンティーニ(食堂)の立ち上げから参加することに。
シェフとして6年間関わったカホリさんは、「nanashi」を育てあげました。
そして2016年。
自宅アパルトマンに近いKeller通りに小さな物件を発見。
カホリさんは、「nanashi」の時から一緒に歩んできたスタッフと一緒に、
自分のお店をもつに至りました。
ここ「ル・プチ・ケレール」は、
お昼は、さっと一品食べることができて、
夜はビストロとして楽しめるお店。
毎日オープンしてすぐに、地元のお客さんであっという間に満席になります。
「こんなお店が近所にあれば、毎日のように通うだろうなぁ」
そう思うほど、幸せな発見があるカホリさんの食堂。
小さい子ども連れのお客さんも、年配のお客さんも、
白人の人も黒人の人もイスラムの人も、
老若男女、いろいろな肌の色の人が集まって調和して、
思い思いに美味しい・楽しい、自由な時間を過ごしていました。
「みなさんも、どうぞ!」と聴こえるパリの下町の食堂で。
カホリさんは今日も厨房で、キビキビと働いています。
13 rue Keller
75011 Paris
tel. 01 43 55 90 54
営業時間:10時30分~22時30分(オーダーストップ)
定休日:日月曜
訪ねた方
遠藤カホリさん
軽井沢生まれ。1995年よりパリ在住。「ローズベーカリー」「ナナシ」のシェフを経て、2016年にオーナーシェフとしてレストラン「ル・プチ・ケレール」をパリ11区にオープン。フランス語の著書に『Une Japonaise à Paris』『Japon, Cuisine intime et gourmande』『Les Bento de Nanashi』、日本語の著書には『NanashiのBENTO』(アノニマ・スタジオ)がある。
撮影/大段まちこ 文/ヌーヌーブックス編集部、井尾淳子