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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

 

 

 

11-side B

まちこさんのアップデート

    ~手放して、“ゼロ”へ

 

前回(side A)では、nounours books編集長&フォトグラファー大段まちこさんの、直感のままに導かれたお引越しストーリーをご紹介しました。

物件探しの中でまちこさんが望んだ新しい部屋の条件は、

「白い箱のような空間」

「空がいっぱい見えるところ」

「光が入って、風が抜ける場所」

 

 

 

そんな希望の一つひとつが、まさにそのまま叶ったようなお部屋におじゃました編集部。

真っ白い壁紙に午後の優しい光が反射するリビングは、入った瞬間に体がほっと緩むような空間でした。

 

 

 

 

 

「朝・昼・夕方、そして夜へと、1日を通して、いろいろな色の光を感じることができるんです」と、まちこさん。

光も空も、いろいろな色。ひとつとして同じ日はなく、季節によっても、その色が変わるさまを五感で感じることができる、と言います。

「毎日違う表情を見せてくれる空や雲、光を眺めていると、人間と同じだなぁと、改めて思ます。おおげさかもしれませんが、“生きている”という感じ」(まちこさん)

聞いてとくにびっくりしたのは、「冬になると、近くにある六甲山から雪が流れてくる」というお話。

 

 

 

 

 

まちこさんの部屋の窓から見える、青空から降ってきた雪(写真/上)

「空は晴れているのに、雪が真っ白な羽のように舞い降りてきて、ほんとうに不思議で、そしてとても美しい光景でした」

(まちこさん)

写真(下)は、夜、窓から見える様子。「しょっちゅう遊びに来る」という、近所に暮らす三姉妹の姪っ子たちと、星座を見ながらずっとおしゃべりすることもあるそう。

 

 

 

写真は、新居の壁の前で撮影した姪っ子三姉妹。3人の成長を、ライフワークとして撮り続けているそう。

仕事に限らず、心が動いた時はいつでも撮影できるように、という希望もあって、ブルーだった壁紙を真っ白にリフォーム。白く広い、箱のような空間になりました。

「壁紙は、“呼吸する壁紙”として知られる、エコフリースを選びました。通気性や透湿性が高いので気持ちがよくて、とても気に入っています」(まちこさん)

 

 

 

 

 

また、「この白い箱のような空間をキープするために、リビングには大きな家具は置かないと決めました」と、まちこさん。

とくに来客時のテーブルについては、ベターなものを探して試行錯誤。結果、心強い応援団となってくれたのが、オーダー家具工房を営む妹・奈保子さんの存在で、写真(上)の可動式テーブルを作ってくれたのだそう。

「ひとつでも使えるし、お客さんの人数が多い時は、天板をつなげることで広くも使えるようになっています。来客時だけテーブルを出す、というスタイルが新鮮です」(まちこさん)

脚が十字になっているので、テーブルをバラした時もスッキリ収納することができて便利(写真/下)。

*奈保子さんの家具工房アートワークスはこちらhttps://aw-kobe.shopinfo.jp

 

 

 

スッキリと、モノがない空間を見渡して思ったソボクな疑問。「前の家にあったものは、かなり手放したのですか?」と尋ねてみました。

「はい。断捨離自体は3~4年前くらいから始めていたのですけど、今回の引っ越しが決まって、さらに一歩踏み込んだ手放しをしました」と、まちこさん。

ひとり暮らしを始めた20代当時は、何もない部屋からのスタート。やがて時が経つごとに、モノはどんどん増えていきました。でも今回、それらのモノとひとつずつ向き合っては、手放していったそう。

なかなかモノが捨てられない身としては、「残すもの」「手放すもの」の基準は何だったのか、とても気になるところです。

「わたしも、すぐに手放せるようになるまでは、時間がかかりました」という前置きからお話してくれたのは、こんなストーリー。

 

 

 

「たとえば、やっぱりカメラは手放せなくて。一時期は、こんなにある!というくらいの台数や機材があったんです。でも今は、自分がいちばん使いやすいカメラ2台のみ。パソコンと同じように、それもどんどん最新機種に変えていく、というスタイルに変えました。人それぞれなので、昔ながらのカメラにこだわる方々も素敵だなと思います。でも、今の自分は、“古いものを大切に”というよりも、“アップデートに移行する”という方が、どこかしっくりきたんです」(まちこさん)

今回の引っ越しで決めた「残す」「手放す」の基準もずばりシンプルで、「これからのわたしに必要かどうか」。そして、「迷ったものほど、手放す」ということ。

まちこさんいわく、「過去の仕事の記録も、たくさん手放しました。もちろん大切なものではあるのですけど、それはわたしの記憶に残っていればよくて。モノとして残す必要はもうないかな、と感じました」。

以前の家にあった6畳の部屋は、仕事関連のモノや資料、本などがどっさり置かれていて、長く「物置部屋」となっていたのだそう。

「大きな棚は、フィルムボックスが天井までうず高く積まれている状態でした。なかには神戸から上京した時に持ってきたものもあって。でもそれは、東京で一度も開けることがなかったんです。もう何年も見ることがなかったそれらの記録をひとつずつ開けて、処分して。その作業はエネルギーを要しましたけれど、手放しながら身軽になっていく感じもまた、同時に味わっていたように思います」(まちこさん)

 

 

 

東京の部屋では、過去の仕事のフィルムボックスがぎっしり詰まっていたという、妹・奈保子さん制作による収納ベンチ(写真)。今はスッキリとした白い空間に心地よく収まって、大好きなぬいぐるみの居場所に。

持っていたモノすべてを100とするならば、99%はもう過去のもの。

そして本当に大好きで大切で、まったく迷わなかったものは「1%だった」と言います。

「過去としっかり向き合って、感謝して、お別れ。その繰り返しは、まるで儀式のようでした」(まちこさん)

 

 

 

 

 

新しい部屋に「持っていく」となった1%のモノたち。思い出深い取材だった雑誌の掲載誌(写真/上)。「ずっと本棚に入れっぱなしだった写真集や本も、洋書の古書専門店に引き取ってもらい、処分しました」(まちこさん)。その中で残ったのは、古本屋で見つけた宝物・ウィリアム・ニコルソンの絵本『かしこいビル』(写真/中)。たくさん持っていたコップ類も、大好きなものだけに厳選(写真/下)。

たくさんのモノと向き合ったお話の中で、とっても象徴的に思えたのは、「冷蔵庫」のお話でした。

「引っ越してから買い換えてもいいかな、と思って、冷蔵庫は持ってきたんです。でも、真新しい、真っ白い部屋のキッチンに置いた時、前の家では白く見えていた冷蔵庫が、なんともいえないくすんだ、薄く汚れた“白”だということに気づいて、わーっと衝撃を受けました。これまでもちゃんと拭いていたはずなのに、時間が経って、“目には見えない積もった何か”がこびりついているようにも見えたんです」(まちこさん)

 

 

 

「この冷蔵庫は、わたしだ」

古くなった“白”を見て、まちこさんはそう感じたと言います。

「前の家にいたら、それは気づかなかったことでした。自分をきれいにするように、一生懸命、冷蔵庫を磨いたんです。すると古いなりにも少しずつ光を放ち始めて、冷蔵庫も喜んだ気がしました。そしてわたし自身も、アップデートされたのかな、と。そんなことを思ったりもしました」(まちこさん)

過去は過去にそっと置いて、家主もモノも、ゼロの場所へ。

あらたなエネルギーに上書きされた冷蔵庫もまちこさんも、今日も元気に、活動中なんだろうな。

そんなイメージがふと、湧き上がってきたのでした。

 

Column 暮らしの中の布使い

 

 

リビングの壁際に置かれたテーブルの上には、白いリネンのテーブルクロスが。

「“白”という空間をキープするために、クロスも白で統一しました」(まちこさん)

 

 

訪ねた方

大段まちこ

フォトグラファー

雑誌や広告で活躍。CHECK&STRIPEのソーイングブックをはじめ、Webマガジン「nounours books」では編集長を担当。

共著に『花と料理』(リトルモア)『神戸ロマンチック案内』(マーブルトロン)企画および写真を担当した「日めくりカレンダーBOOK A VERY MERRY EVERY DAY to you」を出版。

 

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

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