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ROOM STORY

nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。

家のこと。部屋のこと。

ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。

「room story」side A、side Bとしてお届けします。

 

 

 

10-side B

好きなことをして暮らすこと

 

絵本作家であり、「旅するレストラン」として、各地で料理を提供する「トラネコボンボン」主宰の中西なちおさん。

コロナ禍を機に、夫の“ヨッシーさん”こと義明さんとともに故郷の高知に移住し、そろそろ2年が経ちました。

自宅で過ごす日は大体、1階のアトリエで絵を描いているか、2階のキッチンで、ごはんを作っているか(ある時は二人のために、またある時は訪ねてくる仲間のために)。

そのどちらも、「楽しくて、好きなこと」と、なちおさんは言います。

 

 

冷蔵庫の中は、“美味しいもの”の素、つくりおきがぎっしり。取り出しやすいよう、同じサイズの容器を揃えているそうで、きっちりと美しく並ぶおかずたちが出番を待っていました。

 

 

 

「一日中ごはんをつくり続けるのは、苦にならないですか?」と尋ねると、返ってきたのは、こんな素敵な答え。

「ごはんづくりは、意外と大丈夫なんです。自然のものと向き合う気持ちになるせいか、わたしにとって料理は、“ちょこっと野原に出かけるような気持ち”なんですよ」(なちおさん)

夫ヨッシーさんとの日々の会話も、「8割が食べ物のこと」なのだそう。「晩ごはんが終わったと思ったら、お互いすぐに“明日の朝ごはん、何食べる?”って(笑)」

 

 

 

暑かったこの日、たくさんの美味しい飲み物でもてなしてくださったなちおさん。

写真上は、レモンとハチミツを合わせたスイカジュース。下は、さっぱりとした味わいのあんず水。

 

 

 

白を基調にした1階の寝室スペース。「泊まりに来る友人が多いので、寝具はいろいろ常備しています」(なちおさん)

 

 

メインのキッチンとはべつに1階にも、かつて調剤薬局だった時の造りを生かしたかわいいキッチンがありました。ここでは、お菓子をつくることもあるとか。

 

 

 

 

美味しいごはんをつくったり、かわいい作品を描いたり。

「そのご自身の才能を、開花されたこと自体が凄いと思います」とは、CHECK&STRIPE代表のlabmiさん。その質問を皮切りに、なちおさんがどのようにして“トラネコボンボンになっていったのか”、という話題へと移っていきました。

たしかに「好きなことをして暮らす」というのは、シンプルなようでいて、“憧れ”だけでとどまっている人も多いもの。

どうすれば突破口は開くのか、なちおさんの生き方・暮らし方に、そのヒントがありそうです。

 

 

 

 

「単純に、絵を描くのが好きな子だったんです」と、なちおさん。

小学生の時はテスト用紙の裏に、「自分でつくっていた水槽に、次に植える水草の計画見取り図」の絵を描いていたら、先生から「今度、その水槽を見せてください」のひと言メッセージが戻ってきたり。落書きだらけにしていた学校の机についても、決して怒られることはなかったり。そのままのなちおさんを、周囲の大人たちは温かく見守ってくれたようです。

「だから就職ということについても、あまりピンときていませんでした。高校生くらいの時から、ごはんをつくる仕事やアルバイトをしていたので、自力で稼ぐにはどうしたらいいんだろう?と、つねに考えていました。その頃からわかっていたのは、“自分は、やりたいことをやらないと続かないな”ということ」(なちおさん)

“じゃあ、やりたいことってなんだろう?”と考えたとき、「絵は自由に、描きたいものを描くのが好き。だから、オーダーを請けて描く絵の仕事は向いていないな、と思いました。それで、アルバイトで貯めたお金で絵の学校に進学するのは辞めて、アジアとヨーロッパに旅行に行って、帰国後すぐにケータリングの仕事を始めたんです。台所があるところに呼ばれてごはんをつくるというのは、思ったよりも需要が多くて。みんな必要としているんだな、と思いました」(なちおさん)

 

 

2006年頃、「沖縄・高知」の二拠点生活をしていた頃に制作・販売をスタートした動物新聞は、「知る人ぞ知る」ファンも多し。「動物の面白い話を聞くことが、昔からの趣味でした。そうしたらいろんな話が集まってきて、自分だけが知ってるのはもったいないな、と思って始めたんです」(なちおさん)

 

 

 

写真(下)は、毎日描き続けてサイトにアップしているという、「記憶のモンプチ」シリーズの作品が収納されたアトリエの棚。

 

「記憶のモンプチ」は、東日本大震災の時に、被災者の方のために活動していた友達とのやりとりがきっかけだったそう。

「(被災地で)やらなければならないことは山積みだけど、いまみんなに必要なのは、心の休み時間。自分の心から平和にしていきたいから、動物の絵を毎日1枚、送ってほしい、と言われて、毎日描こうと決めました。毎日絵を公開すれば、たくさんの人と共有できると思ったんです」(なちおさん)

記憶のモンプチはこちらから

http://bon.toranekobonbon.com

 

 

 

「自分が好きなことで、どうやって生きていけばいいかな」という、なちおさんの試行錯誤。それは、「人に喜んでもらうごはんをつくること」から始まって、やがてぐるっと一周まわって、もともと大好きだった「絵を描くこと」へとつながっていったのです。

 

 

 

「“自分の好き・嫌い”とか、“こうしたい・こうはしたくない”は、つねにはっきりさせてきました」と、きっぱり。

たとえば白菜は、「横に切って煮るのはいや」。

ピーマンは「炒め過ぎはだめ」。

でも、「今日も明日も明後日も、シャケを食べたい日もある」……。

「“何食べたい?”って聞かれた時に、“何でもいいよー”って答えがちな人も、きっと本当は、“これがいい、これはイヤ”があると思うんですよ」(なちおさん)

ささいなことでも、心がはっきり「YES/NO」を伝えてくる、ということ。それはまさに、「わたしにとっての心地よい暮らしって何?」の答えかもしれません。なちおさんの「ここにしかない家」は、好きなことで生きる答えを、やさしく教えてくれているかのようでした。

 

 

Column 暮らしの中の布使い

なちおさんがいつも着用しているのは、2種の型のワンピース。ひとつは、side-Aで紹介した、フランスの古いチャーチスモッグからパターンを起こしたもの。もうひとつは、「故人ですが大好きな人が、昔作ってくれたワンピースが元の型です。

元のワンピースが好きすぎて着すぎて、布が薄く薄ーくなってしまっていますが今もときどき大切に着ています」と、なちおさん。

 

 

 

 

訪ねた方

中西なちお

絵本作家・料理人。2007年より、「旅するレストラン」と称して店舗を持たず、季節や場所、テーマに合わせ様々な国の料理を提案する、トラネコボンボンを主宰。

2011年3.11震災後 避難先の友人に、何か送ろうかとたずねたところ「毎日動物の絵を一枚送って」といわれてからホームページのblog「記憶のモンプチ」で毎日一枚動物の絵を更新中。

近著に「猫と世界どうぶつ記」誠文堂新光社「トラネコボンボンのお料理絵本」MOE BOOKS「のうじょうにすむねこ」小学館など。

 

撮影/大段まちこ 文/井尾淳子

 

 

 

 

 

 

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