nounours booksが会いたい人を訪ねるページです。
家のこと。部屋のこと。
ともに暮らす家族、日々のあれこれや布使い、などなど。
「room story」side A、side Bとしてお届けします。
09-side a
草花とつながる“秘密基地”
よく晴れた春の日に、私たち編集部が訪れたのは、光と緑が溢れるお部屋。
ここは、フラワースタイリスト・平井かずみさんのアトリエです。
平井さんといえば、お花の教室やさまざまなワークショップの主宰、雑誌の連載や広告、書籍の執筆……等々、
「 その華奢で繊細なお姿の、一体どこにそんなエネルギーが!?」と驚くほど、パワフルな活動が印象的でした。
「 花との暮らしの本質を伝えたい」というエネルギッシュな想いは、今も変わらず。
でも、このアトリエを持ったこと、そして、世界的なパンデミックの中で、
たくさんのインスピレーションと新しいチャレンジが生まれた、といいます。
吹き抜ける風が心地よいアトリエで伺った、平井さんの、元気いっぱいのroom storyをご紹介します。
「ようこそ、いらっしゃいました!」と、明るい笑顔で出迎えてくださった平井さん。
撮影担当(&nounours books編集長!)の大段まちこさんとは、『花と料理 おいしい、いとしい、365日』(リトルモア)の共著仲間でもあって、楽しい近況報告から今回のインタビューは始まりました。
再会のひと時を過ごした後、「ところで、なぜこのアトリエを持とうと思ったのですか?」と尋ねると、返ってきたのは次のような答え。
「アトリエを持とうと思ったのは、3年ほど前です。ふだん、お花の教室やワークショップを行う場所とは違って、
自分ひとりだけの“内省できる場所”があるといいなぁ、と思うようになったんです。
当時はまだコロナ前で、外に向かってのエネルギーは大放出中だったんですけれど(笑)。
そろそろ、アウトプットだけではない、インプットの場所が必要なのかも、と感じていました」(平井さん)
「そんな、秘密基地のような場所が持てたらいいなぁ」という想いから始まった、平井さんの物件探し。
「自分の中で決めていた条件は、①目の前が公園で、②風通しがよくて、③日当たりのいいところ。最初に訪ねた不動産屋さんでは、そんな物件、そうそうありませんよって、軽くあしらわれました(苦笑)」
でも、そこで心折れないのが平井さんの平井さんたる所以! そして運命の波に乗っている時は、物事もトントン拍子に進むことは、これまでのroom storyでもたくさんお伝えしてきました。
「めげずにインターネットで検索したら、すぐにここが見つかったんです。実際に見に来たら、本当に目の前は公園で、中庭には桜の木もあって、花市場にも近いんです。公園の中には渓谷もあるので、橋の上を渡ってくるのは気持ちがいいし、アトリエに来てくださるお客様も、気持ちが浄化されるんじゃないかなと思って。ほかの物件はもう見ないで、すぐに決めることにしました」(平井さん)
さてこの秘密基地を持ったことで、平井さんの暮らしの楽しみは、どのように変わったのでしょうか?
「引っ越しの場合は、すべての荷物が移動しますよね。でもここはアトリエなので、好きなものしか運んでこなかったんです。今の自分に必要なものを取捨選択できたことも、今思えばよかったです。おかげで、本当に好きなものに囲まれて過ごす空間になりました。ものの整理って、なかなか難しいですよね。もう自分にとって旬の時期は過ぎたけれど、思い出もあって捨てられない、とか」(平井さん)
好きなものだけに囲まれた、居心地のいい暮らし。それは、気持ちが上がるのはもちろんのこと、最大級に、
自分に優しくすることでもあるのかもしれません。
「いつも気持ちがハッピーでいられます」という平井さんの言葉を聞くと、思い切って、そういう場所をもってみるのもいいかも?と、思えてくるのでした。
「ご家族がいたり、お子さんがいたり、自分以外の要素のものが、どうしても入ってきてしまう、という暮らしの方はきっとたくさんいらっしゃいますよね。でもどうぞ、“わたしにはムリ”と諦めてしまわずに。
ひと部屋だけ、とか、それが難しければひと区画、ひとコーナーだけでも、好きなものだけのスペースをぜひ持ってみてください。この棚の上だけは、自分の好きなものしか置かない、とか。それだけで、ご自身の“居心地の良さ”は、大きく変わってくると思うんです」(平井さん)
好きなものに囲まれた時間を過ごすうち、買い物の傾向にも変化が出てきた、という平井さん。
以前は器、洋服といった実用を兼ねるものを購入することが多かったけれど、最近は絵やオブジェ、写真など、生活や機能としての用途はなくても、「あるとないでは、この部屋の居心地が全く違う」という、アート作品にアンテナが向くようになったのだそう。
それは、平井さんにとっては大きな「内側の変化」でした。
「空間を居心地よくするもの、という意味では、アートも花と同じなんだな、と思います。生活するために、食事は作らなければならないものですよね。花を生けなくても、困ることはありません。けれど、花を飾ることや、好きな絵や写真などのアートを愛でるという、“自分を満たす視点”を持たないでいると、こころはどんどん寂しくなってしまうなということに気づいたんです」(平井さん)
花やアートを愛でること。たしかにそれも、「自分に優しくすること」につながっているように思えます。
「本当に、そうです。花やアートは、まさに自分を喜ばせるためのもの。ほかの誰のためでもないんです。
だから、あえて高い絵を買う必要も、高い額装をする必要もない。ただ写真一枚、ポストカード一枚貼るだけでも、観るたびにそこに喜びがあって、自分自身の感性を育ててくれるのだと思います」(平井さん)
大好きなものと自然に囲まれたアトリエで、内省の時を過ごした平井さん。
そこから生まれてきたのは、「こころを満たす視点を持つ」ということ。
そして「感性の森を育てる」という、新たなテーマでした。
次回後編side Bでは、そんな平井さんが発信し続けている、素敵なプロダクツの数々をご紹介します。
お楽しみに!
Column 暮らしの中の布使い
アトリエの窓には、ご自身で縫ったという、紐つきの手作りカーテンが。
「このアトリエが決まってすぐ、雑誌の撮影が入っていたので、急いで作りました。
窓の位置が高いので、紐をつければ開閉もラクだし、ポイントにもなるかなぁと思って。
思い立ってダダダッと縫い始めて、なんと2時間半で7枚の布を縫い上げました!(笑)」(平井さん)
訪ねた方
平井かずみ
草花がもっと身近に感じられるような「日常花」の提案をしている。
東京を拠点に花の教室「木曜会」や、全国でworkshopを開催。
また、雑誌やCMでのスタイリングのほか、
「すぐそばにある自然の営みに気づくことで、私たちの感性の森を育む」をテーマに活動する「seed」の第1弾として、
写真・文を自ら手がけた花のタブロイド『seed of life』を発行。
撮影/大段まちこ 文/井尾淳子