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KOBE'S BAKERY-HOPPING

 

伝統的なお店から、ニューオープンのお店まで。

CHECK&STRIPEの本拠地・神戸には、美味しくて個性的で、毎日通いたくなるパン屋さんがたくさん。

神戸開港の翌年(1868年)にはパンの店があったといわれるほど、その歴史は古いのです。

さて、タイトルのお話についても少しだけ。

「Hopping」には、「お店を巡る」という意味もあるそうですよ。

「パンのまち・神戸」に訪れた際には、ぜひ巡っていただきたい、

そんな編集部厳選のお店を全5回にわたってご案内します。

 

 

03 「なくてはならないパン屋さん」になるまで

 

 

 

3回目は、神戸・六甲にある「プチ・ブレ (Boulangerie petit blé)」を紹介します。

 

真っ白な壁に、真っ白な小さなドア。

そのきれいなお店の佇まいから、思わず「ニューオープンのお店かな?」と思ってしまったほど。

でも、店主・堀晴彦さんとともにお店を営む、奥様・ひろみさんによると、

「六甲のこの場所で、気づいたらもう16年目を迎えました。早いですね」とのこと。

「こちらでパン屋さんを始めたきっかけは何でしょう?」と尋ねてみると、

それはお店の歴史であると同時に、ご夫婦の素敵なストーリーでもありました。

 

 

 

パン屋さんとなる以前は、サラリーマンだったという店主の晴彦さん。

インテリア関係のメーカーに務めて丸10年。けれど、ずっと会社員として働いていくことに、疑問を感じ続けていたそうです。

「じゃあ今の会社を辞めて、自分には何が出来るのかを考えました。

その時、“やりがいがあった”と思い出したのが、大学の4年間、ずっとアルバイトをしていたパン屋での仕事でした」(晴彦さん)

勤労学生で、バイト先では朝から晩まで。学校にいる時間よりも長く、パンを作っていたのだとか。

 

 

そしてある日突然、「会社を辞めて、パン屋さんを始めたい」とご主人に宣言された時の、

ひろみさんの気持ちも気になるところです。

「それもいいかもね、というようなことを言ったと思います。サラリーマン時代は、夫の悩みがちな様子も近くで見ていたので…。

それに私も、高校生の頃にパン屋さんでレジ打ちのアルバイトをしていたから、販売のほうなら出来るよ!とも伝えました」(ひろみさん)

心強いパートナーの応援は、きっと、何よりの支え。

そこから、晴彦さんのパン職人としての修行の日々が始まります。

修行先は、名店として知られた神戸・御影の「小麦」。(*「小麦」は店主の高齢により、現在は閉店)

「この記事をきっかけに、会社を辞めた時のことを久しぶりに思い出しました。

でも、その時どういう気持ちだったのか、不安はなかったのか。パン職人として成長していくのに必死で、よく思い出せないんです」(晴彦さん)

たとえ厳しい世界であっても、好きなことに没頭する時間とは、きっとそういうものかもしれませんね。

 

 

 

「小麦」での修行時代に、晴彦さんがいちばん影響を受けたのは、折込生地で作るデニッシュやクロワッサンでした。

「とても美味しかったんです。そして、独立して自分の店を持った時も、

小さな店だから、本格的な設備投資が必要なフランスパンではなくて、小さいパンをメインにしていきたいと思いました」と、晴彦さん。

そして5年間の修行を経て、いよいよお店がオープン。

独立のきっかけとなったのは、なんと以前勤めていた会社の同僚の後押しだったそうです。

「年齢のことを考えたら、もっと早く、独立心をもってやらんとあかんよと、はっぱをかけられました(笑)。

まわりから見ると、マイペースでのんびりしているように見えたのでしょうね」(晴彦さん)

 

 

写真上から時計回りに、

クロワッサン 200円 

モーンデニッシュ 260円 

ダークチェリーデニッシュ 250円  

すべて税込

 

「折込生地で作るパンが好き」という晴彦さんの思いから、プチブレは看板メニューであるデニッシュの種類が豊富です。

りんご、栗、ブルーベリー、バナナなど、季節によって変わるフルーツも含めると、10種類を超えるそう。

「二人だけでやっている店なので、数を多く作れない分、種類は多くしようと決めました。

同じ生地でもトッピング具材を変えることによって、お客さんにいろいろ、迷っていただけるように」(ひろみさん)

 

 

 

なるほど。店内に小ぶりのパンがたくさん並んでいる理由がよくわかりました。

そして、店名の「プチブレ」(フランス語で「小さな小麦」という意味)の由来についても。

それは、「小さなパンがメイン」であることに加えて、修行を積んだ店「小麦」のレシピを絶やしたくないということ。

込められていたのは、その2つの思いからだったのです。

 

 

 

もう一つの人気商品、「ハード食パン」には、こんなエピソードも。

「いつもハード食パンを買ってくださるご高齢のお客様がいらっしゃるんです。ある時、

“私はずっと、御影にあった小麦の食パンが好きで食べ続けていたけれど、お店がなくなってしまって。

もう食べたいパンがないとあきらめていたけれど、ここで同じ味のパンがあるとわかって、感動しました”とおっしゃっていただきました」(ひろみさん)

 

「プチブレ」のハード食パンは、この長さの1/3が1斤(240円)*税込

「使う小麦は、パンに合わせて使い分けます。国産のものから、アメリカ、カナダ産、ブレンドなど、

常時8種類くらいを使っています」(晴彦さん)

 

 

 

写真の布袋は、ひろみさんの私物。

以前、お店の近所で刺繍教室などを行っていた雑貨店の方からのプレゼントだそう。

 

 

 

夫婦二人で始まった小さなパン屋さんは、雑誌の取材や口コミなどで徐々に広まっていき、

今では近所の小さいお子さんがお母さんのメモを片手に、「はじめてのおつかい」にやってくることも多いのだそう。

「今日は売り切れました、とお伝えしても、明日もまた、来ていただけるようなお店でありたい」というお二人。

街の人にとって、「なくてはならないお店」。

二人がそんなパン屋さんになることは、もうずっと前から、きっと決まっていたのかもしれません。

 

 

プチ・ブレ (Boulangerie petit blé)

兵庫県神戸市灘区山田町1-2-3

078-858-8815

営業時間:8:00~14:00(営業時間短縮中)*パンが売り切れ次第閉店

定休日:水曜・木曜

 

 

写真·大段まちこ 構成・文·井尾淳子

 

 

 

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