伝統的なお店から、ニューオープンのお店まで。
CHECK&STRIPEの本拠地・神戸には、美味しくて個性的で、毎日通いたくなるパン屋さんがたくさん。
神戸開港の翌年(1868年)にはパンの店があったといわれるほど、その歴史は古いのです。
さて、タイトルのお話についても少しだけ。
「Hopping」には、「お店を巡る」という意味もあるそうですよ。
「パンのまち・神戸」に訪れた際には、ぜひ巡っていただきたい、
そんな編集部厳選のお店を全5回にわたってご案内します。
02 店も店主も88歳! 老舗「フロイン堂」
2回目は、神戸・阪急岡本駅近くの「フロイン堂」を紹介します。
今回、「掲載は2020年10月15日にしましょう!」と、編集部では満場一致となりました。
理由は、二代目店主(通称「お父さん」)竹内善之さんの、88歳のお誕生日だからです!
記念すべき米寿のお誕生日によせて、
nounours booksより敬意を込めて、この記事を贈りたいと思います。
「パン生地を手で捏ねること」「生地はレンガの窯で焼くこと」
2つの製法のこだわりは、昭和7年の創業から今日に至るまで変わりません。
1日に焼ける食パンは、60本。
お父さんは今日も変わらず、小麦粉だけで30kg近くもあるという生地を45分もかけて、
全身を使いながら手で捏ねていきます。
「農作物の自然のありようを思うと、やはり機械で練るよりも、手で捏ねるのが“まっとう”ではないかな、と思います。
粉、水、砂糖、塩、イースト。それらを手で捏ねていくと、
生地が出来上がっていく過程が、五感を通じてわかるんです」
お父さんの言葉を借りるなら、「手はいちばん繊細で、正確な“センサー”」
一度は機械化の検討もしたけれど、効率は良くても、生地も味も、どうも納得がいかなくて。
やはり、パンの原点「手捏ね」に戻ることを決めたのだそう。
「パンに限らずですが、ラクする方を選んではいけませんね。
こっちが一生懸命になると、パン生地も一生懸命、立派に、美味しくなろうとしますから」
もう一つ、大切なこだわりの「生地をレンガを焼く」という工程も、
機械任せで短時間で、というわけにはいきません。
戦中、戦後に作られた一層式のレンガ窯で温度を調節し、
父・先代から受け継いだ鉄製の型に入れて、じっくりと焼き上げていきます。
(この型は、いまではもう手に入らない貴重なものなのだそう)
レンガが蓄えた熱でパンを焼くと、余計な水分が飛び、本来持っている旨味が引き出されるのだとか。
「パンを焼く際には、「逃せないポイント、タイミングがある」のだそう。
だからお父さんはつねに、厨房奥にある窯につきっきり。
やがてパンの耳にきれいな焼色がついたら、「美味しくなったよ」のサインです。
昼12時から焼き始めた食パンが店頭に並ぶのは、午後2時頃。
そのタイミングに合わせて買いに来るお客さんも多く、ゲットできたらラッキー。
夕方には、売り切れてしまうそうです。
看板メニューの食パンは、1本840円 (税込み)。
(1/2 税込み¥420 1/3 税込み¥280 )*写真は1/3
「レンガ窯で焼いたパンはお腹に入っても軽く、もたれません」(お父さん)
パンを焼き終わったあと、同じレンガ窯で焼くおやつも人気商品です。
写真左 ビスケット5枚入り(税込¥350) 写真右 バターケーキ小(税込¥590)
今でこそ、長く培われた熟練の技で「大事なポイント」を見誤ることはないけれど、
かつてはお父さんも、具材の量や配分を間違えてしまうことがあったそう。
「お客さんに、怒られたことがありますよ。うちのお客さんの中には、4世代にわたって毎日食べて下さる方もいて、
ちょっとした味の変化もわかるそうです。だから、味にうそはつけません」
「この店のパンを食べ続けてきたお客さんのことを、ちょっとは考えたらどうや」
お父さんが「フロイン堂」の跡を次ぐ決意を固めたのも、じつは「お客さんに怒られたこと」がきっかけだったそう。
パン屋さんになる前は、会社勤めだったお父さん。
先代のお葬式の場で、常連のお客さんから言われた厳しく、でも愛ある小言が、
お父さんを本気にさせたのでした。
「手を抜かないよう、いつも見といてもらわんと」
厨房の片隅に飾られている先代の写真は、
最近パンづくりに興味を持ち始めたという未来の4代目、
大学生のお孫さんとお父さんとのやりとりと
美味しいパンの完成を、今日も優しく見守っています。
フロイン堂
兵庫県神戸市東灘区岡本1ー11ー23
078-411-6686
営業時間:9:00~18:00
定休日:第1・3水曜/日曜・祝日
写真·大段まちこ 構成・文·井尾淳子