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わたしのパートナー

 

わたしのパートナー

my partner

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。

これがなくては始まらない、というものがあります。

ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。

連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

 

「ダンディゾン」、「ギャラリー·フェブ」オーナー

引田かおりさんのパートナー·前編

「冷えとり靴下と腹巻き」

 

 

 

吉祥寺パルコの向こう、東急百貨店の奥のあたりは、昔からなんだか気のいいお店が集まるという印象があった。

古くは小林カツ代さんが手がけるキッチン道具の店があったし、地元の人に愛されるカレー店、めずらしい毛糸を売る店やイギリスのアンティーク家具にこだわった美容室。店主が考えていること、感じていることが店という場になり、人との交流を育む。その場へ行けば、醸し出すとくべつな空気を感じ取ることのできる、そんな店が集まる穏やかな一帯。

2003年にダンディゾンがオープンしたときには、そういった穏やかさとは一線を画すキリッとした空気をまとったまったく新しい形態の店だと感じたけれど、18年経った今では、上階にあるギャラリー·フェブとともに、吉祥寺にあるのがあたりまえの、穏やかで健やかな、地元の人にも違う街から訪れる人にも心地よい場所となっている。

 

ダンディゾン、ギャラリー·フェブを切り盛りする引田かおりさんのパートナーといえば、その著書でもおなじみ、夫のターセンさんを思い浮かべるけれど、今回はターセンさん以外(!)でリクエスト。少し考えたあと、「やっぱりこれかな」と挙げてくれたのが、冷えとり用の腹巻きと靴下だった。

 

 

 

 

 

腹巻きは、冷えとり健康法の生みの親である進藤義晴さんが監修した「生活絹」のシルクの腹巻き。そして靴下は、W&fW(ダブリューアンドエフダブリュー)のラメ タビソックス。愛用のメゾン·マルジェラのTabiバレリーナシューズに合わせても、冷えとり中とわからないほどすっきりしたシルエットだ。

「腹巻きはいろいろ試した結果、やっぱり生活絹がいちばん気持ちよくて使いやすい。靴下のW&fWはスタイリストの友人、三上津香沙さんのブランドなんです。彼女も体を壊して、冷えとりですごく体調が改善したんだけど、もっとおしゃれなものがあってもいいと考えて自分でブランドを立ち上げて。この靴下は二重構造になっていて、内側がシルクで外側が コットンラメ。これ一足で2枚履いていることになるんです。五本指ソックスだとちょっとよそのお家に上がるのに躊躇したりすることもあるけど、足袋型だとぐっとおしゃれ度がアップするのもいい。マルジェラの靴にもぴったりでしょう? ラメのキラキラもうれしいんですけど、よくあるチクチクもまったくない。ホールガーメントなので肌当たりも柔らかくてよく伸びるし。最近はターセンも履きだしたくらいです。足があまり大きくないからだいじょうぶみたいで。私も年365日履いてるかな」

 

 

 

じつのところ、引田さんの冷え取り生活はかなり年季が入っている。

「ギャラリーを始めてしばらくしてからだからもうまるまる15年くらい」

きっかけは、長く続いた、自身の体調不良だったという。

子供時代は健康優良児で表彰されるくらい元気だった引田さんだが、結婚して専業主婦になってからは、子供と一緒におたふく風邪にかかっては合併症で入院したり、水疱瘡になったり。

「元気だと思っていた自分が年々弱っていって。おかしいおかしい、こんなはずじゃないって、本当に苦しい30代だったんです。若くして結婚したこともあって、妻だったり母親だったりという役割をしっかり果たさねばという思い込みも強かった。病院へ行っても、病名がつくようなものではなくて。今だったら、鬱と診断されていた状態だったかもしれません。勝手に自分で、いいお母さんにならなきゃ、いい奥さんでいなきゃと負荷をかけてたんでしょうね。でもあるとき、『ああ、わたし専業主婦向いてない』ってはっきり思ったんです」

 

そこからの引田さんの行動は早かった。ちょうど子どもたちが小学校に上がるタイミングで近所の絵本屋さんでアルバイトをはじめた。子育ての経験を生かしてお客様にアドバイスできることも多く、やっぱり自分は働くことが好きなんだと確信する。

「そうやって、徐々に外で働きだして。ターセンが52歳で会社を早期リタイアして、パン屋とギャラリーを始めました。でも、仕事は楽しいんだけど、ここでもやっぱり体がついてこない。すごくやりがいがあるのに、私の体ったら! みたいな状況が続いていたんです」

いい母親、いい妻であらねばという負荷をおろしたはずなのに、今度は仕事をするうえでいつのまにかいろんなものを背負い込んでいた。

ギャラリーで個展を開くアーティストたちとつきあううちに、仕事の枠を飛び越えて、いつしかその体調や人生にまで深く寄り添ってしまっていたのだった。

「アーティストさんは、そもそも自分の好きなことを仕事にしているんだけれど、それだけに何事も深く掘り下げてしまう。そこには深い闇があって、その闇から彼らは作品という形で光を放ってるんだということに気がついて。だから悩みも深いし、体調が良くない人も意外と多いんです」

みんなに笑顔になってもらいたい、幸せになってもらいたいと始めたギャラリー。その思いは届けられたと感じる一方、展覧会が終わったら熱が出てぐったりしている自分がいる。

「ギャラリーを続けるには、私自身が闇を抱える体力と筋力をつけなきゃ、と思い始めました。そして、作家さんたちが抱えている闇に寄り添いすぎてはいけないなということも。話を聞いて、もちろんアドバイスをしたりはしますが、その人生に立ち入ることはもうやめようと。そう決心しないと、あの人、あのじめじめした場所からちゃんと引っ越ししたかしら? 体調悪いと言っていたけど教えたクリニックは訪ねたのかしら? といつまでもその人を案じ続ける自分がいるし、案じたところで、本人が行動に移してくれなければどうしようもできない。そういうことを何年も繰り返してきたから」

 

弱っていた体を立て直すために始めたのは、ヨガやピラティス。パーソナルトレーナーについて筋力を鍛えることも始めた。そんなふうにフィジカルに体を変えつつ、毎日の暮らしに取り入れたのは、ゆるやかな冷えとり方法だ。

「最初は、冷えとりの本を読んでまじめに実践したりもしたんですが、靴下を何枚も何枚も重ねるのは私にはできませんでした。それでも数枚を重ねて靴下を履き、腹巻きをしてお腹を冷やさないようにしたら、なんとなく体調が上向きになっていくのがわかった。それからは、自分のやり方で冷えとりを続けています。ひょんなことから、このW&fWにも出会うことができて。健康も大切だけど、やっぱり見た目も大事にしたい。靴下だって、干してある姿や引き出しにしまっている姿がかわいかったり、きれいだったりして、気分が上がるものがいい。履いている時はもちろん、そうじゃないときも。冷えとり靴下でこんなに共感できるものと出会えてうれしかったし、作っている三上さんもすごくいろんなことを勉強してるから、話しても楽しいんです」

とはいえ、不調が完全になくなったわけではない。

「足もまだ冷えますし、循環も悪いんだと思います。そしてそれが劇的に、完全になくなることはないんだろうと。でも冷えとりをしたり、お風呂に入ったり、食べ過ぎをやめたりしながら、自分の体とうまくつきあっていく。そういう意味では、自分の体のことがわかるようになったということかもしれません。体調が悪くなる少し前に気づくことができ、自分なりの対処法を持っている。『疾病利得』という言葉がありますが、病には意味があって、それによってもたらされるものもある。もし、あなたの人生に体の不調がなかったらどうなっていたかと自分に問いかけるとしたら、ふむふむ、私が若いときからずっと元気いっぱいで、子供も家事も放り出してやりたいことばかりしていたら家庭崩壊していたかもしれない。じゃあね、って夫と別れていたかもしれない。そう考えると、この具合の悪さがストッパーとなって、私の人生が構築されてきたんだなって。自分はちゃんと家庭に根を張りたかったし、家族を大切にしたかったからそれでよかったんだ。そうやって自分はここまでたどり着いたんだな、とようやく思えるようになりました」

 

 

 

わたしのパートナーvol.7 前編

引田かおりさんのパートナー

「冷えとり用腹巻きと靴下」

 

引田かおり●ひきた·かおり 夫のターセンさんとともに、吉祥寺のパン屋·ダンディゾン、ギャラリー·フェブのオーナーをつとめる。出会う人を幸せにする笑顔の持ち主。著書に『しあわせなふたり』『しあわせのつくり方』(ターセンさんと共著)など。読者の背中をそっと押してくれるような新刊『「どっちでもいい」をやめてみる』が好評発売中。

https://dansdixans.net/

https://hikita-feve.com/

W&fW(靴下)

http://www.wandfw.com/

写真·大段まちこ 構成、文·太田祐子(タブレ)

 

 

 

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