わたしのパートナー my partner
家事をするとき、仕事にとりかかるとき。
これがなくては始まらない、というものがあります。
ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切 なもの。
連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。
ぬいぐるみ作家
金森美也子さんのパートナー・後編
「愛犬たち」
ぬいぐるみを作るとき、金森さんはほとんど型紙を使わず、直接ざくざく布を切っていくという。
手を動かすきっかけは、動物に見える古着や生地を見つけた時で、「この生地、犬に見える!」というようなひらめきから始まる。
「この犬たち(上下の写真と前編トップ写真)は、元はアラン編みのセーターでした。とてもしっかりした手編みのセーターで、うねうねした編み模様が毛並みに見えたので、毛足のある犬をイメージして、セーターを余らせることなく、3つ。1つは親戚の家にいた、口の周りがヨダレやけして茶色くなったマルチーズをモデルに。茶色い部分は毛糸でボンボンを作って付けました。ハチワレの犬は、ハギレを縫い付けてうちのルーファスに似せました。立ち耳の犬は、最近お気に入りのスコティッシュテリアに」
そっと布をつまみ、三角に折って、頭の部分に当ててみせてくれる。
「ほら、つまんだだけでも耳にみえるでしょう? こんなふうに、あ、これだったらジャックの耳になるな、なんて考えながら作っていくんです」
下の写真のちび犬たちは、CHECK&STRIPEのぽこぽこウールという生地を使って作ったもの。
「このぽこぽこした感じが、トイプードル、ミニチュアシュナウザー、フォックステリアのくりんくりんの巻毛っぽかったので」
ちょんと愛らしい黒目。思わずつまんでみたくなってしまうお鼻。
金森さんが生み出すぬいぐるみの顔はなんともチャーミングだ。
「人形は顔が命というくらいなので、目鼻を付ける時はとても慎重になります。目鼻はボタンにする事が多いのですが、最初に鼻のボタンを決めます。犬の鼻は、丸っとした黒やピンク色で、とてもチャーミング。鼻が決まると目を付ける位置が決めやすく、いい顔になります。目のボタンは、ボタンの形や柄で、犬の表情を色々にできるので、ボタン探しはこまめにしています」
幼い頃からぬいぐるみが大好きだったという金森さん。
「小さなものから大きなものまで、たくさん持っていました。そんな私のために、姉がぬいぐるみの名前と特徴をノートにまとめた『ぬいぐるみ名簿』を作ってくれたりもして」
こちらはずっと大切にしているというスヌーピーとウッドストック。このくたくたぶりに金森さんの愛情がみてとれる。
「スヌーピーはちょっと特別な存在で。ほかにもたくさん持っています。やはりスヌーピー好きな叔母に姉と一緒にスヌーピーの映画もよく連れて行ってもらいましたね。スヌーピーってどことなく垢抜けていませんか。どんな格好をしても似合うし(笑)。かわいいんだけど、かわいすぎないかわいさっていうのかな。いまも変わらず大好きです」
布からぬいぐるみを作り出すのと同様に、靴下や手袋を素材によく使うこともあるという。今、金森さんが手にしているのも軍手から生まれたボク。洋服は靴下を使ったものなのだそう。
「手袋は、指部分が手足、耳、しっぽになるので、犬を作るのに最適。(もちろん犬以外も)。もともとの形を活かす事で、縫う箇所が少なく短時間で完成します。元はアメリカのおばあちゃんが、子どもたちのために使い古した靴下で作ったソックモンキーがヒントになりました。私も真似てソックワンコや色々な動物を作りましたが、かかとがお尻になって、綿を詰めると安定よく座るんです。ほんとにすごいアイデア。軍手を使ったぬいぐるみのワークショップは、短時間でかわいく出来るので、みなさんに喜ばれています」
金森さんのぬいぐるみ作りを支えてきた、とりわけ深いわんこ愛。
「今でも、うちの子を見てると、『わ、この手かわいいなあ』とか、『ひげがかわいい!』と、かわいい気持ちでいっぱいになるんです。眺めているとやる気が起こる。だから、これからもきっと犬の作品を作り続けていくだろうなと思います」
〈『古着で作るぬいぐるみ』(産業編集センター)〉
●わたしのパートナー vol.13 後編
金森美也子さん
「愛犬たち」
かなもり・みやこ●動物のチャームポイントをそっと取り出して形にしたようなぬいぐるみ制作で人気を集める。ワークショップを開催することも。近刊は『古着で作るぬいぐるみ』(産業編集センター)。https://nuigurumiyako.com/ Instagram @nuigurumiyako
写真・大段まちこ