わたしのパートナー my partner
家事をするとき、仕事にとりかかるとき。
これがなくては始まらない、というものがあります。
ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切 なもの。
連載「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。
ぬいぐるみ作家
金森美也子さんのパートナー・前編
「愛犬たち」
きょとんとした顔つきのきつねくん。黒目がちでおとなしそうなこぐまちゃん、ピンと跳ねたような耳をもつキュートなわんこ。
ぬいぐるみ作家の金森美也子さんの作品は、ほとんどの場合、動物たちが主人公。動物それぞれの持ち味を大げさにデフォルメするでもないのに、独特のかわいさ、ユーモラスな存在感がある。その作風の秘密は、パートナーの存在にあるのかもしれない。
犬のぬいぐるみに、ちょんと鼻キスをするジャックラッセルテリア。
マービンという名のこの子をはじめ、ルーファス、ボクという歴代の愛犬がぬいぐるみ作家・金森美也子さんのパートナー。
「マービンは毛の長いタイプのジャックで、最初にうちに来た犬なんです。私のすることに興味をもってくれて、いたずらもあまりしなくて。なんともいえないかわいさがある子でした」
きっかけは、友人のジャックラッセルテリアを1週間預かったこと。
「友だちには、『3日目にそのかわいさがわかるよ』って言われたんですけど、ほんとにそうでした。最初は元気すぎて、夫と『これはたいへん』って。でも慣れたら夜もお布団に入ってきてペターッとくっついて寝るんです。最後は『帰らないで~』って(笑)」
やんちゃでかわいいジャックラッセルが大好きになった二人は、2002年に仔犬を迎え入れた。
「マービンはとても賢い子で、仕事中もおとなしくじっと見てるんですよ。最初の頃、一度だけ、ハリネズミの作品を噛んで綿まで出してしまったことがありましたけど、ちゃんと叱ったら、それ以来二度としませんでしたね」
マービンが6歳のときに二匹目のジャックラッセルテリアのルーファスがやってきた。
「ひょんな出会いだったんですけど、思えば、マービンもぬいぐるみを抱えて寝ていたり、もしや母性本能?と気にしていたときだったので、とてもタイミングよく。それで、二匹を会わせてみたら、相性も良さそうだったので迎えることに決めたんです」
ちなみにマービンもルーファスも女の子で、ミュージシャンがその名の由来。音楽好きの夫がつけてくれたのだそうだ。
「そして三匹目はまたしてもジャックラッセルテリアのボク。マービンを亡くしてしばらく経った頃、ルーファスがさびしそうにしてたのもあって、迎えました。3匹目ともなると夫も名前が全然浮かばなくて、困った、早くしないと!って、男の子だからボクちゃん(笑)」
マービンから申し送りがあったかのように、ルーファスもボクも、金森さんの作品にいたずらをすることはない。
「3匹それぞれにかわいいんですけど、やっぱりマービンは特別な存在でした。不思議と私の仕事を理解してくれてるようなところがあって。私が夜なべしてぬいぐるみを作ってると、後ろからそっと『ああ、遅くまでやってるんだなあ』というかんじで見に来てくれたり」
ときには、そのままそばで眠ってしまうこともあったという。金森さんはそっと毛布をかけてやり、マービンの寝息を聞きながら夜を過ごしたそうだ。
マービンは、金森さんが生み出す作品にも特別な気持ちを持っているようなところがあった。
「作品が完成したらぜんぶ並べて撮影をするんですけど、マービンは一緒に混じって写りたがるんです。ちょこん、って入ってくる。一緒に記念写真を撮って、送る準備をしだすと、横でじっと見てるんですよ。包むのも箱に入れるのも、最後にガムテープで閉じるまで見てて、それが毎回。そして、展覧会が始まったら、たまにマービンも連れて行くんですけど、ぬいぐるみに再会したら、うれしそうに見てるんです」
そんなマービンがいなくなってもうすぐ5年が経つ。
「やっぱりまだときどき思い出しますね。でも、マービンがきっかけで来てくれたルーファスがいてボクがいて。ものづくりのヒントにもなりますし、いてくれてホッとする。精神的な安らぎをもらえていることがいちばん大きいなと思います」
●わたしのパートナー vol.13 前編
金森美也子さん
「愛犬たち」
かなもり・みやこ●動物のチャームポイントをそっと取り出して形にしたようなぬいぐるみ制作で人気を集める。ワークショップを開催することも。近刊は『古着で作るぬいぐるみ』(産業編集センター)。https://nuigurumiyako.com/ Instagram @nuigurumiyako
写真・大段まちこ