わたしのパートナー

わたしのパートナー

my partner

 

家事をするとき、仕事にとりかかるとき。

これがなくては始まらない、というものがあります。

ふだん、とくべつに意識していなくても、 “ない”と気持ちが落ち着かない大切なもの。

新しく始まった連載、「わたしのパートナー」では、いろんな仕事に携わる方々の、

なくてはならない相棒を通して、仕事や暮らしへの思いを伺っていきます。

 

himie 代表 下川宏道さんのパートナー・後編

ボールペン[LAMY noto]

 

 

1枚の葉書きを見せてもらった。

深いネイビーブルーの布地のうえに、こっそりアルファベットをしのばせた小さな金の鍵が並んでいる。

 

 

新作発表のダイレクトメールだった。

裏返すと、こんな言葉が並んでいる。

 

毎日触れて 右へ左へ

いつもの場所に放り投げる

特段 なんの感情もない

新しい鍵を手にしたとき

いつもと異なる感情が生まれ

心の扉をいとも簡単にひらく

 

下川さんがデザインを考えるときにはいつも言葉がともにある。

 

 

ふだん、あまりスケッチをしない。新作を考えるときも、思いついたことを言葉にして紙に記す。

そのとき手に取るのが、ラミーのボールペン。

「これじゃないと絶対ダメなんて意識したこともなかったけど、

けっこう買い足してるんで、これなのかなあって。

たぶん最初は、銀座松屋のデザインコレクション見つけて。でもデザインがいいですよね。

デザインのいいものにはいつもふれていたいと思うから」

 

書き味に問題もなく、グリップの具合も違和感がない。

意外とそんなふうに、思考の邪魔をしないツールを見つけるのは難しいのかもしれない。

言葉が生まれるのは、だいたい夜中だ。

 

「言葉が少しでてきやすいような気がしますね、

うん。なんかデトックスみたいな。吐き出す時間というか。

朝だと、きれいすぎちゃう気がして。なんか毒っぽいものがでてこない。

だから朝読むと『わ、気持ち悪いこと考えてた』みたいになるんだけど、

でもその気持ち悪さが、もしかしたら必要なのかもしれません」

 

 

言葉を送る「手紙」もジュエリーのモチーフ。

金の封筒を開いたら、小さな小さな板が入っていて、

そこにオリジナルの言葉を刻むことができるようになっている。

 

「いつも思いつきなんです。手紙とか、思いとかを持ち運べるということを考えて。

最初は、男性から女性にプレゼントするイメージだったんですけど、

意外と女性が自分のために、という人がすごく多くて。

最近、アメリカでもこれを扱ってくれるところがあって、アラビア文字のオーダーが入ったり。

右から書くというのも知らなくて、苦労しました。

子供が生まれたら、その名前を彫って、次の子が生まれたらまた、ということもありますし」

 

それは、いろんな人の気持ちを代筆するような作業。

思いを伝えること。

喜んでもらえること。

 

 

「こんなハッピーなことないですよ。幸せにしかならない。

基本的には自分のためだったり、パートナーとのためだったり。気分を上向きにしてくれるものだから。

ぼくらはそれをお手伝いしなくちゃいけないんだけど、心掛けているというか、

きちんと伝えるのは、似合うものを伝えること。

それはちゃんとします。似合わないものを売るのはよくないので。

きれいになりたかったり、かわいくなりたかったり、お客様の会話の端端から拾って、お伝えするというか」

 

実際、ジュエリーを見立てた女性客が、ある時、男性を伴って来店したことがあるそうだ。

「彼氏できましたって、連れてきてくれたんです。ぞわぞわっていうか、ぞくぞくしました。

うれしかったですね。そういうの、ダイレクトに伝わることが多いんです」

 

それは幸せのお手伝いなのかもしれない。

アクセサリーを作り、フリーマーケットで売り始めたときの、うれしい気持ちの連鎖が、

いまも下川さんの周りで続いている。

 

「ジュエリーのお薬じゃないけど、お客様にとってなにか必要な処方箋をだしてるような。

僕たちのつくるジュエリーで、きれいになって楽しくなって元気になって帰ってもらいたい。

そう願っています」

 

●わたしのパートナーvol.1 

下川宏道さんの[LAMY noto]

1930年にドイツの古都ハイデルベルグで設立された筆記具メーカーLAMY社のボールペン。

デザイナーの深澤直人さんとのコラボレーションから誕生したモデル「ノト」。

 

himie aoyama

東京都港区南青山5-3-10フロムファースト2階

電話03-5485-1277 火曜日定休

商品はオンラインショップでも取り扱い有り。

https://himie.com/

 

写真・大段まちこ 構成、文・太田佑子

 

 

 

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