「このお店の近くに暮らしていて、本当によかった!」
大好きなお店がご近所にあるというしあわせに、ちょっと大げさ?かもしれないけれど、
こころが震えるほど、嬉しくなってしまうことはありませんか?
ひとりでも行きたい。
大切な人とも行きたい。
CHECK&STRIPEの本拠地・神戸にも、そんな大切なお店がたくさん。
編集部自慢のFavorite Shopについて、ご紹介します。
6 千代
ここ「千代」もまた、神戸案内には欠かせないお店のひとつ。「お好み焼き屋」でもあり「広東料理屋」でもあるという、ユニークで個性的なお店です。
創業は昭和52年。長い歴史の営みを経て、今日も変わらず鉄板の前に立っているのは、店主の千代さん。お店の歴史は子育ての歴史でもありました。
お店を開くきっかけは、息子さんが3歳、娘さんが1歳の時のこと。ご主人は大阪の中華料理店で働いていて、「自分も働かなきゃ!」と思い立ったといいます。そしてある日千代さんは、小さな空き店舗を見つけます。「ここで、お好み焼き屋さんをやろうかな。作るのも簡単そうだな。自分にもできるんじゃないかな」と思ったのだそう。
ところが、「思ったほど簡単ではなかったんです」と、千代さんはかつてを思い出しながら笑います。「これではダメだ。もっとほかのお店のお好み焼きを研究しなくちゃ!」と、またまた思い立ち、その熱量から幼いわが子の手を引いて連日、お好み焼きを買っては研究し、家族の晩ごはんにしていたそう。「そうしたらね、さすがにある時息子から、“ママ、うちは毎日お好み焼きしか食べられないの? お金がないの?”と聞かれてね。あの時は胸が痛かった(笑)」(千代さん)
写真は、そんなエピソードは信じられないほど美味しい、看板メニューの「ピラミッド焼き(お好み焼きミックス)」(1848円/税込)。
具材はエビ・イカ・タコ・すじこんにゃく・豚・貝柱などなど、盛りたくさん!「あれもこれもと入れているので、“まるでピラミッドやな”というお客さんのひと言から、メニュー名は決まりました」(千代さん)。秘伝のソースは、創業から変わらない調合の甘辛味。
そして、ここのお好み焼きのファンというCHECK&STRIPE代表のlabmiさん(在田佳代子さん)情報によると、冬には春菊のお好み焼きがあり、そちらもおすすめだとか!
写真は、labmiさんのもうひとつのおすすめメニュー「千代特製水餃子 6個入」(1320円/税込 *希望の個数でも可能)。
なんとこの水餃子、千代さんが中国の文献を研究し、見つけたレシピから完全再現したのがはじまりなのだそう。豚バラ・エビ・貝柱・きくらげ・ネギなどの具材が、つるんとした皮に包まれていておいしい!
また、長野県にあるCHECK&STRIPEの保養所nella(ネルラ)に長期滞在の際は、千代さんにお願いし、冷凍の水餃子を送ってもらっているというlabmiさん。ネルラを訪れるスタッフやお客様に「“神戸の味よ~!”と、振る舞っています」とのこと。
知る人ぞ知る、千代の名物メニュー「生ウニのシンプルオムレツ」(2178円/税込)。「卵のふわふわ&うにのとろとろ」は、千代さんがお好み焼きづくりで培った鉄板焼の技術のなせる技! このメニューを食べに、わざわざ遠方から訪れるお客さんも少なくないのだとか。
さてここで、千代がお好み焼きだけではなく、広東料理のお店にもなった理由について、お話は再び、昭和の頃に戻りたいと思います。千代さん、それはなぜですか?
「その時の店舗には、小上がりのようなスペースがあったんですよ。そこで、子どもの誕生日会をしていた日のことでした」(千代さん)
写真上(広東風冷やしまぜ麺 1550円/税込) 写真下(ココナッツカスタード大福 3ヶ396円(/税込)。
「今日のごはんはお好み焼きとちゃうよ~!」
特別なごちそうとして、この日千代さんが子どもたちのために腕をふるったのは、中国式の家庭料理でした。たくさん作ったので、ご近所の知り合い、中国の人におすそ分けをしたところ、「ふるさとの味だ」と大好評。「その方が、広東省出身の方だったんです。後日、友だちをお店に連れて行くからまた作ってもらえないか、と言われまして」。そこからは「あの店の中華が美味しい」と口コミがじわじわ広がって、他店の中華料理屋さんで働いていたお父さんも「千代」の料理人に加わっていって……。結果、どんどん中華のメニューは増えていき、今に至っているのでした。
店内には、30年前からのお客様という、神戸出身のエッセイスト・舞台美術家の妹尾河童さんの貴重な絵が飾られてありました。これは阪神大震災のとき、家族の安否を確認するとともに神戸を訪ねた河童さんが、千代にも連絡をくれたことから贈られたもの。「これは、被災した店周辺の当時のスケッチです。河童さんから、“この絵は震災のあったことを忘れずに、一家みんなで力を合わせて頑張れという意味だよ”と言われたのです」(千代さん)
千代さんいわく、「震災からの再建も含めて、今の店舗は4軒めになります。店を始めた時も、震災の時も、そして今も、くよくよしていても仕方ない、がんばろうと思いながら、続けています」
そしてlabmiさんからも、こんなすてきなエピソードを伺いました。
「ある年の年末にお店に伺った時、とても品のいい出で立ちの紳士のお客様が千代さんに、“ママ、今年もおいしいお料理をありがとう”と告げて、お店をあとにされた場面に遭遇しました。さりげないシーンだったのですが、なんだか涙がこぼれそうになったのを、よく覚えています。わたしもいつも、千代さんが元気で働かれているお姿を見ることで、元気をもらっています」
料理をいただき、満足してお店を出る時に、なぜかするっと「また来ます」の言葉が出てくることがあります。それは、家族・地域・お客さんという、小さなコミュニティをずっと大切にしているお店だからこそ、なのでしょう。その温かな愛情に対する、こころの自然な反応なんだな、と思ったとき、やっぱりわたしも「また来ます」と告げながら、お店をあとにしたのでした。
千代
神戸市中央区中山手通3-2-1
078-332ー5925
営業時間
昼 11:30~14:00
夜 17:30~21:30(LO)
定休日
不定休
info@chiyo.jp
写真 大段まちこ 取材・文 井尾淳子